【ストーリー】
息を切らして走ってくる玉三郎(飛高政幸)。ドアの前で、人待ち顔のマコ(内田さゆり)。玉三郎がやっとたどり着く。
マコ「お兄ちゃん、遅いじゃない。何やってたの?」
玉三郎「わりいわりい。カラオケやってたら、遅くなっちゃった」
マコ「もう始まるから、早く中入ろう」
玉三郎「判った、判ったよ」
ドアの中へ入るふたり。「ON AIR」のランプが点灯する。
ステージでは撮影の準備が進んでいた。
マコ「お兄ちゃん、台詞だいじょぶ?」
玉三郎「だいじょぶだよ!」
スタッフが「本番行きます」と声をかける。ストップウォッチのアップ。カチンコが叩かれる。
マコ「ハーイ!」
玉三郎「おっす」
マコ「みなさん、元気してますか? 先週で『どきんちょ!ネムリン』終わっちゃったけど、いかがでした?」
いままで見てきた『ネムリン』の面白いところを選んでもう一度見せる、と企画の趣旨をマコが説明する。
マコ「ね、お兄ちゃん?」
玉三郎「そう。おれとマコが面白かったなーなんて思ったところや、みんなの手紙やハガキでもう一度見たい、なんて書いてあったところを、みんな見せちゃうからな。それにネムリンもいないし、あいつの悪いところ、みんな見せちゃうからな。そりゃあみんなはおれの歌が聴きたい、なんて思ってる人はたくさんいると思うけど」
マコ「そんな人いるのかな」
玉三郎「いるに決まってるだろ。おれみたいに歌うまいやつ、100人に1人といないんだから」
マコ「そうかなあ、あの歌がね」
第20話の映像。
玉三郎の声「おい、何すんだよ」
マコの声「誰もお兄ちゃんの歌なんて聴きたくないの」
第1話の映像。
マコの声「それより、ネムリンが初めてうちに来たとき」
玉三郎の声「そうそう、こっからだもんな。うちの中がめちゃくちゃになったのは」
第2話、第23話の映像。玉三郎は噛みつかれたり、叩かれたり。
玉三郎の声「どうしておればっかやられるんだよ」
マコの声「お兄ちゃんは叩かれやすいタイプなの。それより少し黙っててよ。喋りすぎよ」
第8話の映像。
玉三郎の声「あ、おばあちゃんだ」
マコの声「あのときはネムリンを棄てろって本当に大変だったわ」
第22話の映像。
マコの声「ネムリンの角笛が故障して、パパとママが入れ替わっちゃって」
第4話の映像。
マコの声「どうしたの、パパやママ、お兄ちゃんまで動物になっちゃったの?」
玉三郎の声「違うよ、あれは怪人イビキの頭の中。イビキにおれたちが操られてんの」
第7話の映像。
マコの声「そう言えば、このイビキには苦労したわね。パパも取り憑かれちゃって」
玉三郎の声「ほんとほんと」
第27話の映像。挿入歌「寝不足怪人イビキ」が流れる。
第14話の映像。挿入歌「タイムスリップおじさん」が流れる。
玉三郎の声「時間を越え、空間を飛び、歴史の中からやって来たタイムスリップおじさん」
第25話、第17話の映像。関係のない第27話、第22話の映像も混じっている。
第5話の映像。
マコの声「さーて、ネムリンの大活躍の番よ」
玉三郎の声「そうそう、マコにお礼を言いに来た空き缶怪物なんてのもいたなあ」
第10話の映像。
マコの声「悩めるバス停を救ったのは」
第16話の映像。
マコの声「肉まんとアイスの戦争のときも」
第18話の映像。
マコの声「お寺の鐘が叩かれるの厭になって家出したときは、どうなるかと思ったわ」
玉三郎の声「おれたちもあぶなくやられるところだったな」
第24話の映像
玉三郎の声「おれは堀越落ちたときも」
マコの声「そうそう、ネムリンがタコ焼きの話でなぐさめてくれたっけね」
ふたたび第14話の映像。寝てしまうネムリン。
マコの声「ネムリンって私たちに素敵な夢を持ってきてくれたのね」
玉三郎の声「ネムリンのやつ、本当にいいやつなんだな。あの角笛でいろいろなものと仲良くなれたしな。バス停、空き缶、タコ、お寺の鐘。みんな友だちになっちゃったもんな」
マコの声「みなさん、長い間ネムリンを応援してくれてどうもありがとう」
玉三郎の声「それじゃみんな、元気でな」
マコ・玉三郎の声「バイバーイ」
働くスタッフの影絵をバックに、クレジットタイトルがせり上がる。
【感想】
『どきんちょ!ネムリン』の最終話はこれまでの総集編。不思議コメディーシリーズ後期の『美少女仮面ポワトリン』(1990)以降4作品では、夏場に総集編があってスタッフ・キャストの夏休みだったのだろうが、ラストがそれというのは今回が唯一で珍しい。『ネムリン』の後半は、メインスタッフが『TVオバケてれもんじゃ』(1985)に異動したり、あるいは『てれもんじゃ』と掛け持ちしたり、おそらく切迫した情況で制作されていた。オリジナルで1話分つくる余裕がなかったのだろう。
今回は序盤に東映の撮影所が映り、スタッフやカメラが画面に映り込む。80年代は業界ドラマが流行った時代なので、その影響かもしれない。不コメで他に同様の例がないわけではなく、後年の『うたう!大龍宮城』(1992)の総集編(第29話「ヤドカリ」)でも撮影所のドアなどが映り、予告編ではスタッフの後ろ姿も出てきて、フィクションであることが劇中で明言された。ちなみに『大龍宮城』では最終話のラストで、物語の完結後に出演者みなが踊るところでカメラが引いていってステージのセットであることが判明する。
構成は助監督の大竹真二氏(後年の『ポワトリン』や『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)も当時の助監督が手がけていた)。構成ということは、ナビゲーターを務めるマコと玉三郎の台詞も大竹氏が書いているのだろうけれども、マコが「ハーイ」と愛想良く言うあたりなどちょっと変な気もする。
最初に「さよなら!愛の妖精」とタイトルコールの際に、マコ役の内田さゆり氏の声は感極まっている。
玉三郎は、ネムリンたちが来てから「うちの中がめちゃくちゃになった」と言っているが、お前も十分トラブルメーカーだったよという気も。
先述の『大龍宮城』の総集編ではレギュラーが結構顔を見せたのだが、今回はマコと玉三郎のみ登場。ネムリンすら帰ってしまって不在で何だか淋しい(多忙な舞台裏が偲ばれる)。
空き缶、バス停、肉まんとアイス、除夜の鐘、タコ焼きと無生物はもれなく登場するので、当時反響が大きかったことが推察される。一方でビビアンとモンローの出番はほぼカット(ふたりが活躍する第9話や第20話などは筆者の思うベストエピソードなので、わずかしか出てこないのは残念)。
ラストは働くスタッフの影絵をバックに、エンディング主題歌が流れる。スタッフに混じってイビキらしき影も。
高視聴率を叩きだした前作『ペットントン』(1983)の後で、その余勢を駆ってスタートした『ネムリン』。序盤は焦点を外したソフトな映像で女の子向けにシフトした印象であったけれども、中盤から無生物が活躍し、イビキやタイムスリップおじさんといったおっさんも暗躍し、トータルでは対象がよく判らない怪作に仕上がった。
『ペットントン』は、序盤は無難なホームドラマ仕立てだったが、後半になるとレギュラー陣もゲストも躁状態の言動を繰りひろげることが多く、アッパーになっていく。全話を見直してみると『ネムリン』は前作より登場人物がやや少なく、ミニマム志向・閉鎖性が目立った(狙ったのか結果的にそうなったのかは不明)。『ペットントン』ではざわざわと注目する通行人の映るハプニング撮影が頻繁に見られたのに対し、『ネムリン』では少なかったのは、作風の内向性を象徴しているようにも思われる。第11話の夢なのか現実なのか判然としない落ち、第16話や第24話の夢の中での展開もマニアックな味わいを強めた。ヒット作の後でディープな笑いに転じたというのは、後年の『ポワトリン』→『トトメス』の流れに酷似しているようにも思われる(『トトメス』のほうが『ネムリン』よりシビアな内容だけれど)。
『ネムリン』は大ヒットしたり大人数で実況して盛り上がったりする作品ではなく、密やかに愉しむよさがあった。笑えてビターな第9話や第20話、ほのぼのとして微笑ましい第5話や第8話、シュールさに幻惑されつつも胸があたたかくなる第10話や第18話など、人に言わずにそっとしまっておきたいような魅惑がある。くせの強い不コメの中でも特異な立ち位置にいる、愛すべき作品であった。
『どきんちょ!ネムリン』の全話レビューは、これにて完結。今後も『ネムリン』が語り継がれていくことを祈念します。