『どきんちょ!ネムリン』研究

『どきんちょ!ネムリン』(1984〜85)を敬愛するブログです。

第24話「燃えろ!タコ焼きの青春」(1985年2月10日放送 脚本:浦沢義雄 監督:佐伯孚治)

【ストーリー】

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 猛然とごはんをかきこむ玉三郎(飛高政幸)。「まあ、合格は間違いないんだから」と自信満々の様子。

 

玉三郎「まあ受験してたやつの顔見たって、おれぐらい頭よさそうな顔したやつ」

 ママ(東啓子)が「玉三郎、もうみんな食べ終わってるわよ」。ふと見ると、食卓にいるのは玉三郎だけ。「急いで急いで」と出かけていくパパ(福原一臣)とマコ(内田さゆり)。「いってらっしゃーい」と見送るネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。すると一旦玄関を出たパパが戻る。

マコ「どうしたの、パパ?」

パパ「ネムリン、玉三郎のことなんだが、いっしょに堀越まで見に行ってくれないか?」

ネムリン「あっしが?」

マコ「そうね!」

パパ「落ちたときのことが」

マコ「本人だけだもん、受かると思ってるの」

 

 ネムリンがソファで寝ていると、電話が鳴る。掃除機を持ったママが来る。

ママ「ネムリン、そこで寝てるなら出てくれたって」

 ママが出ると、玉三郎からだった。

ママ「これから堀越に?」

 保護者さえいれば合格発表を見に行っていいと言われたそうで、ママはネムリンを起こす。

 

 玉三郎はキョウコ(石田沙織)の美容院からかけていた。

キョウコ「試験どうだった?」

玉三郎「簡単なもんですよ。あ、キョウコさん。もみあげ全部落としちゃって」

キョウコ「いいの?」

玉三郎「おれ、どっちかっていうと、もみあげないほうがルックスいいから」

キョウコ「はい!」

玉三郎「堀越に芸能プロダクションのスカウトが来てるかもしれないからね」

 ため息をつくキョウコ。

 

 ネムリンと玉三郎はバス停で並ぶ。「似合うか」と玉三郎

ネムリン「全くそんなこと言ってる場合かよ」

玉三郎「まあ、堀越に入ったら半分芸能人みたいなもんだから」

ネムリン「お前、ほんと幸せなやつだな」

玉三郎「お前もそう思うか」

ネムリン「ああ、たまりませぬ」

 

 妄想の中で、堀越の制服姿で玉三郎は挿入歌「夢のサクセススクール」を熱唱。女性ファンが花束や色紙を持って駆け寄ってくる。記者会見をしてフラッシュを浴び、階段を降りるとファンに囲まれる玉三郎

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 掲示されている合格者の受験番号。玉三郎は受験票を見て、「ない!ない!」と叫び、ひっくり返る。

ネムリン「玉三郎、見間違えということもある! 受験番号は?」

 もう一度確認したネムリンは、玉三郎を起こす。

ネムリン「やっぱり、ない」

 玉三郎はまたひっくり返る。

 

 空き地でドラム缶に引きこもった玉三郎。その周りを飛び回るネムリン。

ネムリン「そんなにがっくりくるなよ。人生いろいろあるんだからさ」

玉三郎「同情はやめろ」

ネムリン「同情じゃない、同情じゃない」

玉三郎「同情なき同情は同情とは言わず」

ネムリン「何だそれ」

玉三郎「同情ある同情を同情と言う」

ネムリン「誰が言ったんだ、その判ったようで判らない言葉?」

玉三郎「駒形どじょう」

ネムリン「バカかお前は。みんなが心配してるのに。勝手に苦しめ」

 ネムリンが行こうとすると「ネムリーン」と中山(岩国誠)の声が。

中山「どうだった、玉三郎くん? 落ちてたでしょう」

 ドラム缶の中に玉三郎がいるとは知らない中山。ネムリンは慌てる。

中山「あの頭じゃ落ちるよ、正直な話。義務教育あと3年、どうやって終わらすかが問題だよ」

ネムリン「中山、中山」

中山「あの頭じゃ、あの頭じゃ」

 中山は行ってしまう。顔を出す玉三郎

玉三郎ネムリン。みんな、おれのこと、どこ心配してくれてんの?」

 

 玉三郎は赤電話のダイヤルを回す。

ネムリン「玉三郎、やめたほうがいいんじゃないか」

 「もしもし、タカダ商事ですが」とパパが出る。玉三郎ネムリンに受話器を渡して、頼む仕草。

 

 会社でパパは、声を潜めて「どうだった、玉三郎?」と尋ねる。

パパ「何、落ちた? やっぱり」

 電話ががちゃんと切れる。

 

 赤電話の前で、怒る玉三郎

玉三郎ネムリン、やっぱりというのはどういうことだ」

ネムリン「だから、それはさあ」

玉三郎「最初からおれが堀越に入ることを期待してないんじゃないか」

ネムリン「そんなことない。ママやマコは」

 

 商店街で「それがね奥さん、その旦那ったら」と屈託なく話すママ。

玉三郎「あれが息子の合格発表を心配する母親の姿か」

ネムリン「だからママにはママの事情があって、ああ明るく…それにしても明るすぎるな」

 「あっはっはっはっは」と爆笑するママ。

 

 公園でマコは、友だちとやはり屈託なく遊んでいた。

玉三郎「あれが兄を思う妹の姿か」

ネムリン「世の中いろいろあるから」

玉三郎「ああ、おれ完全に再起不能

 

 玉三郎はまたドラム缶へ

ネムリン「玉三郎、やめろ。そんなところに入ってどうなる」

 玉三郎ネムリンを振り払う。

玉三郎「どうなるもこうなるも、おれはいま入りたい気分なんだ」

 そこへビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター山崎清)とモンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)が「玉三郎〜」と走って来る。

モンロー「堀越、どうしたモンロー?」

ビビアン「そのお顔じゃ予想通り落っこったのね」

モンロー「モンローモンロー」

ビビアン「玉三郎、堀越だけが中学じゃないんだからしっかりしなさい」

モンロー「モンローモンロー」

 「落ーちた、落ちた」と唄いながら行ってしまうビビアンとモンロー。

玉三郎ネムリン、おれいま慰められたのか?」

ネムリン「一応な」

玉三郎「あーおれ再起不能通り越して絶望だ」

ネムリン「どうしてだ」

玉三郎「あんな化け物みたいなやつらに慰められる人生、送りたくない」

ネムリン「なるほど」

 玉三郎はまたドラム缶に入り、ネムリンは「玉ちゃん!」と呼ぶ。

ネムリン「玉三郎、悲しいのはお前だけじゃない」

 ネムリンは玉三郎の耳を引っぱる。

ネムリン「堀越落ちたくらいが何だ! タコ焼きなんかな」

玉三郎「タコ焼き?」

 

 玉三郎ネムリンは、屋台でタコ焼きを買う。もりもり食べる玉三郎

ネムリン「このタコ焼きがどんなに苦労してタコ焼きになったか、お前にはタコの気持ちがちっとも判ってない」

玉三郎「あ、タコ?」

ネムリン「そう、あれはネムリンが塾の先生をしていたころだった」

 

 塾で教壇に立つネムリン。生徒はみな海産物。

ネムリン「ではイカかけるタコは? 判る人?」

 海産物たちは「はい」「はい」と動く。

ネムリン「じゃエビさん」

エビ「はい、三杯酢」

ネムリン「はい、よくできましたね。これは算数の基本ですから、みーんなよく覚えて…」

ネムリンのナレーション「生徒にはイカやエビがいて、その中にはタコ焼きになりたかったタコがいた」

 

 合格発表を見に来ているタコ(声:阿部渡)。

ネムリンのナレーション「しかし運悪くそのタコは、タコ焼き学園の受験に失敗してしまった」

 タコはショックを受ける。 

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 「おれと同じでやんの」と笑う玉三郎

ネムリン「玉三郎、笑ってる場合じゃないだろ」

玉三郎「はい、そうでした」

 

 神社でタコは抗議する。

タコ「やい、神さま。あんなにお賽銭やったのに、どうしておれの願い聞いてくれないんだよ。神さまのバカ、インチキ、嘘つき、どろぼー」

 神主のネムリンが飛んでくる。

神主ネムリン「お賽銭はお返しします、お賽銭はお返しします」

 

玉三郎ネムリン。お前、学習塾の先生じゃなかったの?」

ネムリン「あのころは忙しくて、塾の先生もすれば神社のアルバイトもしてたの。横からちょこちょこ口出すなよな」

 ネムリンが振り向くと、玉三郎の姿がない。

 

 玉三郎は、神社で鈴乃尾を鳴らして叫んでいた。

玉三郎「お賽銭返せ! このインチキ神社。お前んとこがよく効くっていうから、お願いしたのに」

 賽銭箱を開けようとする玉三郎を、ネムリンは「ばちがあたるだよ!」と止める。玉三郎ネムリンにパンチ。吹っ飛んだネムリン。

ネムリン「この〜」

 ネムリンは、ターザンのように叶緒につかまって、

ネムリン「天罰ネムリンキーック」

 玉三郎はひっくり返る。

ネムリン「お前といると、ほんと疲れる」

 

 受験に失敗したタコは、暴走族になっていた。学生服姿のネムリンが「ランラランララン」と唄いながら来る。ハーレイに乗ったタコ。

タコ「ようよう。こら気取るな、ブス」

女学生ネムリン「ふん」

タコ「何だよ、てめえ」

女学生ネムリン「近寄らないで。あたし、あんたみたいなタコ大っ嫌いなんだから」

タコ「てめえタコに向かってタコとは何だ、このヤロー」

 タコは「逃げろ逃げろ、怖いか」と、バイクで女学生ネムリンを追い回す。

女学生ネムリン「タコだからタコって言って何がいけないの!?」

 「またタコって言ったな」とタコは激昂。

女学生ネムリン「いたいけな少女に何をするの」

タコ「どーこがいたいけだ、お前なんか」

 追い回すタコ。

ネムリンのナレーション「街でも評判の不良となり、遂には関西系広域暴力団おでん組に入ってしまった」

玉三郎の声「ネムリン、なんかそれおいしそうな暴力団だな」

ネムリンのナレーション「そう、実においしそうな暴力団だった」

 

 警察で、刑事のネムリンが「タコ、お前がやったんだな」とタコを取り調べる。しらばっくれるタコ。

刑事ネムリン「うそをつけ。がんもどきをやったのは、お前だ!」

 留置所で「どんぐりころころ」の口笛を吹くタコ。今度は教誨師になったネムリンが。

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教誨師ネムリン「タコさん、あなた昔はタコ焼きになりたかったそうですね。神はあなたを見捨てはしません」

タコ「おれは神さまなんか信用してねえよ」

教誨師ネムリン「もう一度タコ焼きになるつもりはないですか」

タコ「ないね」

教誨師ネムリン「嘘おっしゃい。あなたはタコ焼きになりたがっている。あなたはタコ焼きの夢を棄てられない」

 教誨師ネムリンは「あなたなら立派なタコ焼きになれる。ならなきゃいけない!」と鉄格子を壊す。

教誨師ネムリン「真っ当なタコ焼きの道を歩むのです」

 ネムリンの胸には十字架が。

教誨師ネムリン「なれなれ、タコ焼きになれ!!」

 ネムリンはタコに十字架を突きつける。

タコ「は、はい。なります、なります、タコ焼きに!」

 牢屋の外へ出て来るタコ。

ネムリンのナレーション「こうしてタコはふたたびタコ焼きになる夢を抱いた」

 タコは体力づくりをして、ねじりはちまきで机に向かう。「たたみいわしの反乱は1825…」と唱えるも「だめだ!」。

ネムリンのナレーション「しかし一度失った夢は、そう簡単に甦らなかった」

 タコはパチンコや麻雀、夜遊びに溺れる。

ネムリンのナレーション「社会の誘惑がタコを誘った。それを救ったのは…」

 ゲームセンターに入ろうとするタコの前に、女学生ネムリンが。

女学生ネムリン「いや、そんなタコさんなんて大っ嫌い。タコ焼きになる夢はどうしたの? やるっきゃない」

 タコは「判った!」とふたたび奮起する。机に向かうタコ。「タコさん、お茶が入ったわ」と女学生ネムリンが。だが、いらだったタコはひっくり返す。女学生ネムリンは「これ食べて」と料理を持ってきて、甲斐甲斐しく「これ、体にいいんですって」といろいろ運んでくる。

タコ「こんなもんいるか!」

女学生ネムリン「精つけて、がんばってね」

 机に向かうタコを見ている女学生ネムリン。

ネムリンのナレーション「こうしてタコは何回も何回も挫折を繰り返し」

女学生ネムリン「もうひと息よ、タコさん」

タコ「ようし、エビが繰り上がればいいのか」

ネムリンのナレーション「遂に次の年のタコ焼き学園に合格して」

 合格発表の掲示を見て喜ぶタコ。

ネムリンのナレーション「いまでは立派なタコ焼きとなった」

 

 食べつづける玉三郎

ネムリン「どうだ、玉三郎。感動したか?」

玉三郎「バカヤロー、誰がそんな話感動するか」

 走って行く玉三郎ネムリンは「玉〜」と呼ぶ。

 だがひとりまた神社へ来た玉三郎は「タコ焼きのやつ…」と涙して、タコ焼きを口に放り込んだ。木の陰から見ているネムリン。

ネムリン「玉三郎もいいとこあるじゃん」

 

 元気に空を飛ぶネムリン。挿入歌「ストップ・ザ・ネムリン」が流れる。マコが走ってきて、中空のネムリンを呼ぶ。

マコ「大変なの、お兄ちゃんが」

 

 玉三郎は庭で小麦粉をたらいに流し込んでいた。止めるママとマコ。

玉三郎「離してよ。おれ、立派な玉三郎焼きになるんだから!」

 ネムリンは、けらけら笑う。

マコ「ネムリン、笑ってる場合じゃないでしょ」

 玉三郎は止めるふたりを振りほどき、ネムリンにパンチ。

ネムリン「あいたー!」

玉三郎「おれ、立派な玉三郎焼きになるぞー!」

 玉三郎は小麦粉にダイブして真っ白に。

玉三郎「なるんだー!」 

【感想】

 無生物の旺盛な活動が目立つ本作『ネムリン』だが、今回は何と生物(本物のタコやエビ)を使っての熱いドラマが描かれた。『ネムリン』の代表作としてはやはりバス停肉まん・アイスが挙げられるけれども、今回もやはり忘れてはならない奇篇であろう。序盤から長々と描かれてきた玉三郎の堀越受験が、一応の決着を見る。だが今回のタコの強烈なインパクトは、あの玉三郎が霞むという信じがたい事態を招来した。空き缶、バス停、そしてタコ(これは生物)など『ネムリン』で活動する物たちは、視聴者の共感を誘う。

 見ていた誰もが感じていたことだけれども、唄ったり祈ったり寝ていたりするばかりでろくに勉強していなかった玉三郎は、案の定受験に失敗。やけになった玉三郎の「同情なき同情は同情とは言わず 同情ある同情を同情と言う」という台詞は、後年の浦沢義雄脚本『人造昆虫カブトボーグ V × V』(2006)や『俺たちは天使だ! NO ANGEL NO LUCK』(2009)でも使われている。

 タイトルロールのタコは後半のBパートになって何の伏線もなく登場。おそらく当初は玉三郎だけで全編押すつもりだったが、面白くならなさそうなので中盤まで書き進めたところでタコを出そうと思いついたのだろう(『ペットントン』〈1983〉の第8話「ゴリラvsびっくり看護婦」と同様のパターン)。こういう場合、前半を修正して前ふりを用意したりしないのが浦沢流脚本術である。傷心の玉三郎に関しては第26話で全面展開される。

 主役がタコに交代して以降は、第16話同様にネムリンの夢の中の話であるらしいので真偽は不明。神主、女学生、刑事、教誨師役をネムリンが務める。故・井上ひさしが自身の舞台『太鼓たたいて笛ふいて』(2004)のテレビ放映(2004年8月)の際に、限られた登場人物にプロデューサー、活動家、権力の手先などさまざまな役割を担わせるべく工夫を凝らすのが舞台演劇の面白さであると述べていたけれども、今回は何のエクスキューズもなくネムリンがさまざまな役を担当しており、こんなのありかよと思いつつ夢の中だからか違和感はあまりない。

 タコは茹でダコであり、それをワイヤーか何かで動かしている。メガホンを取った佐伯孚治監督は、このエピソードは撮影中にタコがだんだんくさくなってきて大変だったと回想(「東映ヒロインMAX」Vol.6〈辰巳出版〉)。佐伯監督は、この時期はさまざまな作品を撮って多忙だったはずだが、2話しか演出していない『ネムリン』の印象は強かったとおぼしい。後半は学習塾、市街地、刑務所などのセットがつくられて、そこに茹でタコやエビを持ち込んでの撮影。映画『キングコング対ゴジラ』(1962)はミニチュアセットの中にやはり本物のタコを持ち込んで巨大タコを表現しており、アメリカ映画でもトカゲなどをセットに入れて怪獣に見立てていたが…。

 なおこの10年以上前に佐伯監督が撮った『帰ってきたウルトラマン』(1971)の第47話「狙われた女」では、海に落ちた主人公の服の中から本物の茹でダコが出てくるというギャグがあった。実物にこだわる佐伯監督の凄みが感じられる。

 ちなみに不思議コメディーシリーズでは後年の浦沢脚本 × 佐伯演出の『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)の第25話「ザリガニのバンザイ」でもやはり今回と同様にセットの中にザリガニが持ち込まれ、ザリガニが妻子に見送られて会社に出勤するというシーンがあった。 またやはり不コメの『もりもりぼっくん』(1986)の第35話「怒りのタコ大明神」(監督:近藤杉雄)でも本物のタコが劇中に登場するが今回ほどのインパクトはない。

 妄想の中でサングラスの玉三郎がサイン攻めに遭っているシーンは大泉の東映撮影所で、不コメでは『もりもりぼっくん』の第6話「私は伊藤かずえです!!」などにも使われた。『時空戦士スピルバン』(1986)の第41話「主役は誰だ!仕組まれた夢工場」などにも出てくる。