『どきんちょ!ネムリン』研究

『どきんちょ!ネムリン』(1984〜85)を敬愛するブログです。

第10話「バス停くん田舎へ帰る」(1984年11月4日放送 脚本:浦沢義雄 監督:大井利夫)

【ストーリー】

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 畑にある案山子。横を通る電車。

 車内ではマコ(内田さゆり)が座席に腰かけ、ネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)が吊革につかまっていた。

マコ「私、まだ信じられない」

ネムリン「信じなくてもいいよ」

 

 1週間前の日曜日、ネムリンが公園で寝ようとしていると、バス会社の人(高橋等)が来る。

バス会社の人「あのーこのへんで、バス停見かけませんでした?」

 ネムリンが「わかんない」と答えると、

バス会社の人「どこ行っちまったんだろうね。あ、どうもでした、どうも」

 そこへ玉三郎(飛高政幸)が中山(岩国誠)を「早く来いよ」と引っぱってくる。

中山「玉三郎くん、いきますよ」

 ふたりはキャッチボールを始めるが、中山は明後日の方向に投げるばかり。

ネムリン「レレレレレ」

 やがてボールはネムリンの方へ飛んできて、ネムリンは慌ててよける。

玉三郎「中山、お前本当にやる気あんのかよ」

中山「ありますよ、ありますよ」

 玉三郎と中山はつかみ合いに。

 

 大岩家の居間でジュースを飲んでいるマコとネムリン。話を聞いたマコは「そんなに下手なの」と嘲笑する。

 そこへさっきのバス会社の人が「こんにちは。実は、あの」と現れる。ネムリンにバス停の代わりをやってくれと依頼に来たのだった。「昼寝するつもりで」と言われてネムリンはその気になったと、マコはパパ(福原一臣)とママ(東啓子)に話す。

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 高層ビル街。ネムリンは、時刻表を貼った棒の上で昼寝していた。その前に主婦ふたり(金子勝美、本庄和子)が同時に来てにらみ合い、どっちが1番かで物を投げつけ合う大げんかに。ネムリンは「やめろ、主婦!」と一喝。

ネムリン「全く、近ごろの主婦は…」

 今度は犬が周囲をうろつく。ネムリンが「しっしっ」と追い払おうとしていると、バス会社の人が来て、バス停があったという。

バス会社の人「川でボートに」

 川でボートに乗っているバス停。

バス会社の人「いったい誰がそんないたずらしたのか、きのうなんか駅のホームにいたんだよ」

 駅のホームにいるバス停。

 バス会社の人はバス停を持ってきて、「いろいろお世話になったけど、どうもありがとう」と去っていく。ネムリンも帰ろうとすると、「おれ、東京になじめないんだ」との声が。振り返ると、そこにいるのはバス停だけ。

 

 帰宅したネムリンは、バス停が喋ったと訴えるもマコやパパ、ママは信じない。

 翌朝、大岩邸の前にバス停が。おかげで編み物をする人、サラリーマン、女子高生などバスを待つ人びとの行列が家の前にできていた。マコはビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター山崎清)とモンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)にバス停を運ばせる。

ネムリン「ビビアン、モンロー。そっちじゃないよー」

 バス停を持って、よその家にずかずか入っていくビビアンとモンロー。並んでいた行列もぞろぞろ入っていく。和室で朝ごはんを食べていた中年夫婦(山浦栄、山本緑)は、いきなり上がり込んできたビビアンとモンローと行列に驚く。

夫「何だ、きみたちは」

 ネムリンは止めに来る。

ネムリン「ばか、こんなところにバス停を置いちゃ!」

 

 ネムリンは、バス停をもとあった高層ビル街に戻し、みなも連れてきた。バスが来て、行列は整然とバスに乗り込んでいく。ネムリンは「バス停、どうしてネムリンちの前に来た?」と話しかける。バス停は黙然。

ネムリン「誰かが持ってったんじゃなくて、自分で駅のホームや川のボートに?」

 ネムリンが飛んでいこうとすると、「おれ、きたないからきょう中に壊される」との声が。驚くネムリン。

 

 ネムリンは唄いながら、庭でバス停(声:上田敏也)を洗ってあげていた。

ネムリン「♪しゅしゅしゅのしゅ、しゅしゅしゅのしゅ、バス停きらきら〜」

 バス停は心情を語り出す。

バス停「おれ、前にも言ったように、東京になじめないバス停なんだ」

ネムリン「どうして東京になじめないんだ?」

バス停「おれって性格的に田舎者のバス停なんだ」

ネムリン「あ、それで川からボートに乗ったり、駅から電車に乗って田舎に行こうとしたんだね」

バス停「田舎でのんびり暮らしたくてね」

 だがネムリンに綺麗にしてもらって自信がついたバス停は、「東京で立派なバス停になってみせる」という。

ネムリン「そうこなくっちゃ」

バス停「ネムリン、生まれ変わったおれの姿を」

 ネムリンはバス停にホースで水をかけ、石けんを落とした。

 

 ネムリンとバス停は、いっしょにもとの高層ビル街へ戻る。

ネムリン「ああっ!」

 バス会社の人が、新しいバス停を設置していた。

ネムリン「おじさん、ちょっと待って!」

バス会社の人「おお、ネムリン。どう、いいバス停だろう?」

 ネムリンは、前のバス停は綺麗になったので東京になじめると主張するが、いっしょに来たはずのバス停は姿を消していた。

 

 ネムリンがバス停をさがしていると、バス停は、迫り来るトラックの前に横たわっていた。ネムリンはトラックの運転席に飛び込む。

運転手「うわっ」

 ネムリンはハンドルを切り、バス停をよけた。

ネムリン「あ、バス停いない!」

 バス停は重石をつけて、川への飛び込み自殺を試みていた。

ネムリン「バス停、だめだよ。早まるんじゃない!」

 ネムリンはバス停に突き飛ばされる。重石が川へ落ちるが、バス停の姿はない。

 今度は「いちご白書をもう一度」をバックに、バス停は空き地でたき火に当たり、焼身自殺を図っていた。

ネムリン「バス停、やめろ!出てこんか」

 ネムリンは雲に向かって角笛を吹く。すると雲は雨雲に変容し、雨が降ってきて火は消えた。

ネムリン「なんか飲む?なんか飲もう」

 うなずくバス停。

ネムリン「待っててね。待ってんだよ。きっとだよ」

 ネムリンが缶ジュースを持ってくると、バス停はまたいなくなっていた。高層ビル街や駅、川沿いをさがし回るネムリン。だがバス停の姿はない。

ネムリン「バスてーい! おーい、バスてーい」

 泣き伏すネムリン。

 

 それから3日目。テーブルで物憂げな表情のネムリンに電話がかかってくる。

ネムリン「もしもし」

バス停の声「あ、ネムリン。おれ!」

ネムリン「バ、バス停! いまどこにいるの?」

バス停の声「田舎」

ネムリン「田舎ってどこの?」

 

 冒頭のシーンに戻る。電車の車内にいるマコとネムリン。田舎の駅で下車したマコとネムリンは、畑のあぜ道を歩く。

マコ「その東京になじめなかったバス停、田舎に来てもバス停やってるのかしら」

ネムリン「まさか、田舎には田舎のバス停がいるから、そんな甘いもんじゃないよ」

マコ「じゃ何してるの」

ネムリン「さあ」

 そのとき「ネムリーン」と明るい声が。畑の中に、案山子になったバス停の姿があった!

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 ネムリンは「バス停!」と飛んでいく。バス停も「ネムリン」と嬉しげにジャンプ。

バス停「ネムリーン、ありがとう」

 「心配したんだぞ、こいつ」と再会を喜ぶネムリン。驚いていたマコも笑顔に。

マコのナレーション「東京になじめなかったバス停は、田舎の田んぼで案山子となって働いていました」 

バス停くん田舎へ帰る

バス停くん田舎へ帰る

  • メディア: Prime Video

 【感想】

 浦沢義雄脚本にとって十八番の無生物路線。『ネムリン』と言えばバス停と一部で伝説化した回で、この回を境に『ネムリン』の狂気の扉は本格的に開かれた。

 不思議コメディーシリーズの前作『ペットントン』(1983)ではチャーハンの駆け落ちや豆腐の怒りが描かれたが、彼らは何も話さず、他の登場人物の口を借りて心情が語られている。無生物は何も喋らないのがいいという向きもあったけれども、筆者は台詞で語ったほうが無生物の感情の機微が伝わるという思いがあった。『ペットントン第40話では人形が喋って愛の悲劇が描かれたが、『ネムリン』にて空き缶(第5話)やバス停といった、人形よりも非人間的存在が言語を発したことを契機に、浦沢脚本の無生物路線はより複雑なドラマを繰りひろげていくことになる。

 

 都会に適応できないバス停が田舎で案山子になったという落ちも面白いのだが、あまり語られることのない前半も相当にトンでおり、

 ①バス停が失踪

 ②バス会社の依頼でネムリンがバス停に(何で?)

 ③バス停が大岩家の前へ来る

 ④ビビアンたちがバス停を近くの民家へ運び込む(何で?)

 ⑤バス停に並んでいた人びとも民家へ上がり込む(何で?)

と凡人の頭から出てこないような発作的な思いつきがつなげられ、さりげなく常軌を逸した展開になっている。比較的均整の取れたストーリーが多かった『ネムリン』も、遂におかしくなってきた(③については、もしかしたら空き缶に慕われた経緯によって無生物界ではネムリンの名がとどろいているのかもしれない)。

 後半でバス停が道路や川、たき火で死のうとするのは『ペットントン』第40話の反復であろう。だが今回は「いちご白書をもう一度」がバックに流れ、変な哀愁がより際立っている(演出の領域か)。

 

 ネムリンが庭でバス停を洗ってあげるシーンでは、第5話で空き缶を洗ったときと同じ「しゅしゅしゅのしゅ」という唄をネムリンが口ずさんでいる(アドリブ?)。マコやパパなどがバス停と語らうネムリンを不審がることはなかったが、日曜日の翌日で月曜だからおそらくみな外出していたのだろう。

 バス停がいそいそと歩いて行くシーンは、『うたう!大龍宮城』(1992)の第45話「スズメダイ」を想起させる。 

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 バス停の声は、不コメでは『バッテンロボ丸』(1982)のネクラゲ、『ペットントン』のヤギ、雪だるまなどを演じた上田敏也氏。情けない感じの演技がはまっており、ラストにて自分の居場所を見つけて弾んでいる口調もうまい。

 バス会社の人は『ペットントン』では警官役で準レギュラーだった高橋等(現:たかはし等)氏。東京ヴォードヴィルショーに所属しており、当時ヴォードヴィルのメンバーは不コメに多数出ているのでその流れであろう。第25話ではヴォードヴィルから市川勇氏が出演。

 

 前半にバス停がいるのは、同じ東映制作の戦隊シリーズなどでもよく使われた西新宿。バス停が川でボートに乗っている場面は『ペットントン』によく出てきた武蔵関公園。たき火で自殺しようとする空き地は『ペットントン第20話第35話などでも使われた。

 ラストのネムリンとマコが降りる駅は、秩父鉄道持田駅。この時期の不コメでは秩父鉄道のロケが恒例で『ロボット8ちゃん』(1981)の第9話「いるぞあえるぞ ぼくのお父さん」、『バッテンロボ丸』(1982)の第31話「どうなる?!恋の三角関係」などでも鉄道沿線が登場する。 

 

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