『どきんちょ!ネムリン』研究

『どきんちょ!ネムリン』(1984〜85)を敬愛するブログです。

第22話「大逆転!パパとママ」(1985年1月27日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)

【ストーリー】

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 冬枯れの公園。ネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)をかごに入れて、自転車をこぐマコ(内田さゆり)。友だち(市村みつ子)が待つ木の下に到着したマコは、「まだ寝てる」とネムリンをつかむ。「起きて」と逆さにされたネムリンは「こらマコ、何するんだ」とやっと起きる。

マコ「この木にバドミントンの羽が乗っちゃって。さがしても判らないの。ネムリン、お願い」

 ネムリンが角笛を吹くと、ボールやら洗面器やらトイレットペーパーやらがらくたが落ちてきた。ネムリンたちが驚いていると、ドアにマネキン、テーブルも落下。最後には爆発。

ネムリン「いえー!!」

 ネムリンはびっくりして角笛を水たまりに放り投げてしまう。

 

 大岩家の庭では、ビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター山崎清)が洗濯物を干していた。

ビビアン「あたしの人生はいったい何なの。このうちで一生こき使われて、終わるっていうの? ああそんな、むごいむごい、むごすぎる〜」

 ネムリンが飛んでくる。

ネムリン「ビビアン、この角笛、洗って」

 ネムリンが投げた角笛は、ビビアンの頭に当たる。ネムリンは「頼んだよ、いいね!」と行ってしまう。

ビビアン「何よーこんなもの」

 

 ネムリンはテーブルで悠然と牛乳を飲む。ママ(東啓子)は「玉三郎、たまー、おたま」とさがし、「玉三郎!」となべを開けたりしていた。

ママ「いないわ」

 

 玉三郎(飛高政幸)は堀越学園に来ていた。登校する生徒を、微笑んで見つめる玉三郎。どうやって入ったのか、玉三郎は校庭で玉三郎は「オー」と拳を突き上げる。

 

 居間でゲームをしているマコとネムリン。パパ(福原一臣)が来る。

パパ「玉三郎、『ひょうきん族』見ないのか」

玉三郎「パパ、おれいまそれどころじゃないよ」

パパ「じゃ『全員集合』見ていいんだな」

 「勝手に見れば」とにこやかな玉三郎。「やったー」とパパは大喜び。「ゲームはもうおしまいね。今度はぼくの時間」とパパはテレビを奪い、マコとネムリンは不服顔。ママも冷たい目を向ける。女たちの視線を一身に浴びたパパ。

パパ「『NHK特集』でも見るか」

 

 玉三郎は自室で気勢を上げる。

玉三郎「目標、堀越に入って太田プロからアイドルとしてデビュー! 堀越受験まであと20日。がんばるぞー! まだあるな」

 ベッドで即寝入る玉三郎

 

 翌朝、パパとママは昨夜同じ夢を見たと話して盛り上がっていた。玉三郎が来る。

玉三郎「いやあ、きのうはしっかり受験勉強しちゃって、快い疲労感!」

パパ「私がバレリーナになって、「白鳥の湖」踊ってる夢だった」

 玉三郎が飲もうとした味噌汁には、バレリーナになったパパの姿が映る。顔を振るわせる玉三郎

ママ「あたしなんてね、小錦になって土俵入りよ」

 今度はごはんに、小錦になって「どすこい」と連呼するママが。また顔を振るわせる玉三郎

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 部屋ではマコとネムリンがベッドで寝ていた。早く起きろというネムリンに、日曜日だからまだいいというマコ。ふたりは布団を引っ張り合う。そこへふらふら入ってくる玉三郎。タンスの引き出しを開けると、またパパが。

玉三郎「パパがタンスの中でバレリーナ

 缶を開けるとママが。

玉三郎「ママが缶の中で土俵入り」

 玉三郎はまた顔を振るわせ、頭からゴミ箱をかぶって「ははははははは」と笑う。驚くネムリンとマコ。

 

 玉三郎は、パパとママの姿がちらついて受験勉強が手につかないと報告。

玉三郎「ぼく、堀越学園、ほとんど無理みたい。はははははは」

ママ「あなた、どうしましょ」

パパ「どうするったって…」

マコ「パパとママのきのう見た夢を取り替えればいいんじゃない?」

ネムリン「それしかないな」

 だがネムリンの角笛がない。

 

 ネムリンがコインランドリーでビビアンをさがしていると「ねーむりーん、ここだよー」と声が。ビビアンは乾燥機の中でぐるぐる回っていた。

ネムリン「何やってんだ」

ビビアン「最近寝汗がひどいもんだから」

 乾燥機から出て来るビビアン。

ネムリン「バカっ、角笛は?」

 

 玉三郎は「ちらつく」と言いながら顔を振るわせていた。ネムリンは角笛を持って帰宅し、心配するパパとママの前で吹こうとするも、音が出ない。

ネムリン「あれ、おかしいな」

 ネムリンが無理に吹くと、角笛からシャボン玉が出てくる。そしてパパとママの頭からピンクのもやが発せられ、入れ替わった。

玉三郎「ちらつかない!」

 玉三郎は元気に2階へ。茫然と立ち尽くすパパとママを、マコは不安そうに見つめる。

 

 パパ(福原一臣 声:東啓子)は「ピンクのモーツァルト」を唄いながら皿洗い。

ネムリン「パパがママになってる」

マコ「ということは」

 ビビアンが「大変大変」と駆け込んできた。

 

 ママ(東啓子 声:福原一臣)は、タバコを吸いながらパチンコ。ネムリンは「いいから帰ろうよ」と引っぱっていく。

 

 「あらいやだ、こんなに荒れちゃって」と気にするパパと、競馬新聞を長めながらヒゲを剃るママ。ママは「第8レース、絶対なんだよ」と言いながら競馬場に、パパは美容院に行こうとするが、マコは「だめ」と止める。

マコ「パパもママもきょうはうちにいてお願い!」

 ネムリンも「お願い!」。

 パパは編み物をして、ママはダンベル。

 

 自室で悩むマコ。

マコ「こんなこと、お兄ちゃんにばれたら」

ネムリン「またショックを受けて」

マコ「うん」

ビビアン「ただでさえ堀越あぶないって言われてるのにね〜」

ネムリン「お前は黙ってろ」

ビビアン「はーいうー」

 ビビアンは口を手で押さえるが、マコは「ネムリン、ビビアンの言う通りよ」。即座にうなずくビビアン。

マコ「お兄ちゃんにはしっかり受験勉強してもらわなくっちゃ」

 

 カレーをつくるパパと、ビールを飲みながらゴルフのクラブを拭くママ。

ママ「おい、タマネギたくさん入れてくれ」

パパ「はいはーい」

 マコはため息。

 

 こたつにいるネムリンとビビアン。

ネムリン「パパとママがああいうふうになっちゃったのは」

ビビアン「ふたりの夢を入れ替えたときから」

ネムリン「ということは」

ビビアン「判った! 角笛が故障してるんじゃないかしら」

 ネムリンは「あのとき、この角笛からシャボン玉が」と思い出す。

ビビアン「そりゃ出るわよ。何しろこの角笛、洗剤の中に埋まってたんだから」

ネムリン「何!?」

ビビアン「あたしの推理ではね、角笛に洗剤が詰まり、あのときはまだ湿っていたから、シャボン玉が出て夢といっしょに性格まで入れ替わっちゃったんじゃないかしら。ほら、こんなに洗剤が詰まってる。見る?」

ネムリン「お前、よくすすがなかったな」

 怒ったネムリン。

ビビアン「そんな怖い顔しないで」

 ネムリンはビビアンにキックし、ペンチをつかむと「ねじねじ、これでもかー」とビビアンのおしりを刺す。

ネムリン「ネムリンは怒ってるんだぞー」

 マコが「パパとママが!」と駆け込んでくる。

 

 タマネギがそのまま乗っかったカレーに、ママは怒る。

ママ「まずいからまずいと言ってるんだ」

パパ「でもあなたがタマネギ入れろって言うから」

 ふくれるパパ。

ママ「物には限度が。タマネギのせいにするな」

パパ「ひどい、ひどいわ、そんな言い方」

ママ「逆らうな」

 ママはパパに平手打ち。驚くマコたち。

パパ「やったわね!」

ママ「ああやった」

 パパはママを引っかき「やったな」「やったわよ」とふたりはつかみ合いに。マコは慌てて止めに入るが「子どもは黙ってろ」と突き飛ばされる。

パパ「だったら自分でつくったらいいじゃないの。前田さんも植田さんも平山さんも、みーんなご主人がつくってるわよ」

ママ「何、もう一度言ってみろ」

 戦いは激化。

ネムリン「喧嘩のほうはビビアンに任せて。ビビアン、何ぼけっとしてんだよ。早く止めろよ」

 今度はビビアンが止めに入るも、ふたりはビビアンを介して?叩き合いに。ネムリンはマコに、角笛を濡らすように頼む。

ネムリン「詰まってる洗剤出して、パパとママの夢を交換するっちょ。そうすれば性格もいっしょに元通りっちょ」

マコ「何だか判んないけど」

 マコは角笛を水でゆすいで「はい」と渡す。ネムリンが角笛を吹くと、中から大量のシャボン玉が。庭はシャボン玉でいっぱい。

ネムリン「ああ、苦しい。マコ、交代」

 マコも吹くと、やはりシャボン玉が。室内からパパとママと首を絞められたビビアン、三つ巴の三者が出て来る。

ビビアン「相手が違うのよ〜」

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 後ろから唐突にモンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)が「どうしたモンロー」と登場。

ネムリン「モンロー、この角笛を吹くっちょ!」

 ネムリンは角笛を投げ、モンローの口に命中。モンローが吹くと、さらにシャボン玉が。

ネムリン「モンロー、がんばれ」

 舞い飛ぶシャボン玉。パパとママの間で、ボコられつづけるビビアン。やがてシャボン玉が止まる。

モンロー「あら、出なくなった」

ネムリン「いまだ、モンロー」

 モンローは改めて角笛を吹き、パパとママは元に戻る。ビビアンはダウン。

ネムリン「やったやったー」

ママ「カレーもろくにできないの」

パパ「どうしてそんなことをおれが」

 パパはママを平手打ち。

ママ「やったわね!」

パパ「ああやった」

 怒ったママはパパを引っかく。またもつかみ合うふたり。玉三郎はベランダで叫ぶ。

玉三郎「うるさいなあ、もう、静かにしてよ! 受験勉強ができない」

 玉三郎は勢い余って、頭から庭へ転落。 

大逆転!パパとママ

大逆転!パパとママ

  • メディア: Prime Video

【感想】

 パパとママの入れ替わり話で(厳密には人格の入れ替わりではないけれど)、よくあるパターンではあるのだが、小ねたは愉しめる。

 入れ替わりは映画『転校生』(1982)やテレビ『放課後』(1992)など数限りなくあるせいか、浦沢義雄脚本ではあまりない気がする(独自性のあるアイディアを志向する浦沢脚本としては、他人が既に手をつけた路線をやろうとは思わないのかもしれない)。

 浦沢脚本で特徴的なのは女性キャラが強いという点で、不思議コメディーシリーズ前作『ペットントン』(1983)の第43話でのヒロイン・小百合の残酷さや同作の第31話の男を虐待する女たち、『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)での女子小学生たちの諍いなどが挙げられる。本作のマコもドライできつい性格をしていて、そのような強さが毎度強調される一方で、べたに女らしい属性はあまり描かれない。だが今回の夢が入れ替わったママとパパは紋切り型で古い女性キャラあるいは男性キャラとして扱われており、制作された時代を鑑みればこんなものだろうという気もするのだが、浦沢脚本の系譜を考慮に入れると違和感を覚える(入れ替わりを強調するために、べたに描かざるを得なかったのか)。

 その意味で浦沢性の希薄な今回ではあるけれども、夢の中でバレリーナになったパパと小錦になったママには笑わされる。小錦は、浦沢脚本では『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第34話「尊敬されたカツパン」にて「たとえハワイマウイ島出身の巨漢大関小錦八十吉関が許しても、この美少女仮面ポワトリンが許しません!」という台詞があった。 

尊敬されたカツパン

尊敬されたカツパン

 映像面で特筆されるのは、玉三郎の目指す堀越学園が劇中に登場する場面で、ロケーションに協力したのかとびっくりする(『ごめんね青春』〈2014〉では劇中でバカにされたと抗議していたが、80年代は鷹揚だったのだな)。挿入歌「夢のサクセススクール」の流れる中で、校門や登校する生徒が映し出され、校庭にいる玉三郎まで…。登校のショットは『3年B組金八先生』の第3シリーズ(1988)を想起させ、この80年代感は個人的にやるせなさを誘われる(筆者は幼くてリアルタイムの記憶はほとんどないけれど)。

 つづく大岩家のシーンでは、ファミコン(→ゲームパソコンであるとコメント欄でご指摘をいただきました)をしている横で『ひょうきん族』やら『全員集合』やら『NHK特集』やらが言及され、時の流れに言葉を失う。フィクションの中に現実の固有名詞を投げ込むのは浦沢脚本の作風でもありいまではほとんどありえないが、この時代にはさほど珍しくなかったのだろう。 

ごめんね青春! Blu-ray BOX

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 ママの台詞には近所の人という設定で、平山亨・植田泰治・前田和也プロデューサーの名が登場。6年後の『不思議少女ナイルなトトメス』の第6話「チョコレート好きな悪魔」でも会社の女子社員の名前として、小林義明・木村京太郎・日笠淳・西村政行・高寺成紀プロデューサーの名が使われた(6年経つと同じシリーズでもプロデューサーがすっかり交代してしまっている。全員男だ…)。東映でなく円谷プロ制作の作品だけれども、『ウルトラマンタロウ』(1973)の第31話でもお隣の人として田口成光や石堂淑朗といった脚本家の名が出てきた。

 

 序盤の木の下のシーンでは、大量のがらくたの落下に驚かされる。この公園は、場所は不明だが『ネムリン』には数度使われている。

 コインランドリーは、1980年代の東映特撮にて見かける“みそのコインランドリー”であろうか。