第27話「イビキのガイコツ作戦」(1985年3月3日放送 脚本:浦沢義雄 監督:大井利夫)
【ストーリー】
きょうも「ねむねむねむ」とベッドで寝ているネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。その部屋にマコ(内田さゆり)が「こんなうち」と言いながら入ってくる。マコはベッドに寝て、ネムリンにのしかかる。
ネムリン「苦し〜」
マコ「ああ、もう絶望」
ネムリン「マコ、重い! 重いったら」
マコはやっと「ネムリン、いたの」と気がつく。
ネムリン「何だよ、その白々しさ」
マコ「ごめんごめん」
マコは悲しげな顔に。
ネムリン「どうしたっちょ?」
マコ「パパとママ」
ネムリン「また?原因は」
マコ「お兄ちゃんがどっち似かで」
ネムリン「ちょ〜」
階下でパパ(福原一臣)とママ(東啓子)の言い争う声が聞こえてきた。
食卓でふたりは言い合う。
ママ「はっきり言って出来が悪いんです!」
パパ「ママ、それを言っちゃあおしまいよ」
横で、いつものようにがつがつ食べている玉三郎(飛高政幸)。
玉三郎「大丈夫、おれに遠慮しないで。おれ、傷つきにくい性格だから」
自室で聞いているマコとネムリン。
マコ「これだもんね」
ネムリン「マコ、同情しちゃう」
マコ「えーん、えーん」
ネムリン「よちよち」
険悪な食卓へ、ネムリンが2階から飛んでくる。
ネムリン「そうか?」
玉三郎「だからおれにくれ」
ネムリン「玉三郎、お前もう少し家庭つーもんを考えたほうが。いいか、このうちはお前の問題でいつもパパとママが喧嘩じゃないか。珍しいぞ、こう夫婦喧嘩が多いうちも。ま、何だ。そりゃパパはけちで絶壁かもしれないわな」
パパは後頭部を押さえながら「何」と振り向く。
ネムリン「ママだって料理は下手、掃除は嫌いときてる」
ママも「ん」と振り向く。
ネムリン「こんな両親を持った玉三郎、たしかにお前は不幸な少年だ」
気がつくと、パパとママが怒っていた。
ネムリン「ちょ〜」
なべとフライパンを持って、ネムリンに襲いかかるパパとママ。
ネムリン「ネムリンは悪気があって言ったわけじゃないんだってば」
ネムリンを追いかけ回すパパとママ。やがて三つ巴の乱闘に。悠然と食べつづける玉三郎。
公園へ逃げてきたネムリン。
ネムリン「こうなったらあいつらで憂さ晴らしだ」
何故か、ビビアンとモンローの人形が滑り台の上に。ネムリンが角笛を吹くと、人形は滑り台を滑って、砂場でビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター:山崎清)とモンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)が実体化。
ネムリン「よーし、いくぞー」
ビビアン「ももももう、何よネムリン。朝っぱらから」
ネムリン「ほら起きろ。起きろ起きろ」
なかなか起きないビビアンとモンロー。すると後ろからモグラがひょっこり顔を出す。
モグラは「冬眠中」のプラカードを掲げる。「ごめんごめん」とネムリン。穴に入っていくモグラ。
道をイビキ(佐藤正宏)が「寝不足、寝不足」と唱えながらふらついていた。
イビキ「全人類を寝不足にして寝不足帝国をつくろうとする寝不足怪人イビキが寝不足になるなんて、はずかしい。でもはずかしがってる場合じゃねえや」
庭でゴルフをしながら不機嫌なパパ。
パパ「子どもたちさえいなければ離婚だ、離婚。離婚離婚。リ、コーン」
だがボールはカップに入らず。
パパ「ボールまでわしをバカにしやがって」
ふと見るとクラブがイビキの首に。
イビキ「イビキです」
パパ「知ってます」
イビキ「あの、ネムリンは?」
ネムリンと聞いたパパは、クラブをイビキの角に引っかけ「知・ら・な・い」と振り回す。
皿洗いをしながら「あのとき別れてればよかった」とやはり不機嫌なママ。イビキが這ってくる。
イビキ「あの、ネムリンは?」
ママ「そうすればこんな不幸には…」
イビキ「ネムリン」
ママ「そうよ、あたしはまだ若いのよ」
イビキ「ネムリン」
ママ「見ようによっては、まだ18。見えるわよね?」
イビキ「ネムリン」
ママ「見えるわよね」
イビキ「ううん」
ママはイビキの顔面を皿で引っぱたく。吹っ飛ぶイビキ。皿は割れる。
マコが自室で本を読んでいると、ドアが開き、顔を押さえたイビキが。
イビキ「ネムリンは?」
マコが振り向くと、びっくりメガネの目玉が飛び出す。イビキは「わーおったまげー」と逃亡。
イビキが玉三郎の自室に逃げ込んでくると、玉三郎がマイクを口にほおばっていた。
イビキ「ネムリンは?」
玉三郎は首を振り「♪もしかしてもしかして 私の他にも誰か」とカラオケセットで唄い出す。女性パートが終わるとイビキはマイクを強奪。「♪もしかしてもしかして」と歌い出すが、玉三郎もつかみかかり、ふたりで奪い合う。
玉三郎「♪私いじわるをしてしまう」
玉三郎は、イビキを往復平手打ち。
公園の砂場でネムリンとビビアン、モンローが折り重なって寝ていた。イビキが来る。「ネムリン」と呼ばれて起きるネムリン。
ネムリン「あっイビキ、やる気か〜」
イビキ「違うの違うの」
イビキは工事現場のそばで暮らしていた。工事の音がうるさいので、大声で会話するイビキとネムリン。
ネムリン「この音で寝不足になったって?」
イビキ「もう完璧」
イビキが「あーそーこだよー」と指した先には段ボールの家が。
ネムリン「お前も苦労してんだなあ」
イビキ「そう、少し苦労しすぎて。ああ、寝不足」
大岩家のソファで寝ているイビキ。
マコ「それでうちで寝かせろって? ちょっと図々しくなあい?」
ネムリン「そうは思うけどさ」
マコ「また何か企んでるんじゃないの」
ネムリン「マコもそう思うか?」
マコ「うん」
寝つづけるイビキ。ネムリンも電話の隣で「ねむねむねむ」と寝入ってしまう。やがてイビキはおもむろに起き上がる。
イビキ「このー」
ネムリンに飛びかかるイビキだが、ネムリンは「ちょ」とあっさりよける。がしゃーんとテーブルへ突っ込むイビキ。
ネムリン「どうしたんじゃあ?」
「あはは、よーく寝たー」とイビキは笑ってごまかして体操する。
イビキ「すっかり体もこの通り。ネムリン、ありがとう」
イビキが「つきましては、お礼がしたい」と手を叩くと、地図が下から出てくる。イビキ家に代々伝わる家宝のありかを示した地図だという。
ネムリン「え!?」
イビキはネムリンに地図をプレゼントして去っていく。
地図を広げてみるマコとネムリン。
マコ「絶対イビキの罠よ」
ネムリンは地図を外へ放り棄てる。
ネムリン「あ、そうだ。公園行かなくっちゃ、公園公園」
マコ「公園?」
ネムリン「いや別に、その…。全国から公園で、犬がお産で苦しんでて、ゲートボールしてるから」
道へ飛んできて、さっきの地図を拾うネムリン。
ネムリン「マコはあんなこと言ってたけど、こりゃもしかすると本当に宝が」
ネムリンは「♪たっからもの、あ、たっからもの」と唄いながら飛んでいく。
やがてネムリンは、林の中の小屋にたどり着いた。
ネムリン「このうちに宝物が?」
小屋に潜入するネムリン。蜘蛛の巣がはり、ガラスは割れている。
ネムリン「やっぱりこれだな」
ネムリンが宝箱を開けると、天井から檻が落ちてくる。
ネムリン「謀られた!」
煙が上がり「バーカめー」とイビキが現れる。
ネムリン「だましたな、イビキ」
イビキ「当たり前だ。ネムリン、お前のそのスケベ根性が命取りになったな」
イビキは大笑い。
ネムリン「出せ、このヤロー」
イビキは檻越しにネムリンをつかまえて、足の裏を「こちょこちょ」とくすぐる。
ネムリン「離せ!」
イビキ「お前さえいなければ、全人類を寝不足に。怪人イビキの夢が実現する。手始めに、お前の家のやつらを」
イビキはどろんと消える。
大岩家の居間ではパパとママがまた、玉三郎はどっち似かで喧嘩中。ふたりがつかみ合っているとイビキが出現。
パパ「何だまたお前か」
ママ「いま取り込み中なんだから、言いたいことがあったら早く言いなさいよ」
イビキ「さっきはよくも」
イビキは文字弾ガオーを発射し、パパとママは黒こげに。
檻ではネムリンが「出せー」と叫んでいた。すると宝箱が開き、中にはガイコツが。
ネムリン「ギクー」
マコの部屋に、イビキがガオーを持って出現。マコはまたびっくりメガネを使う。
イビキ「おったまげーってバーカ、2度も同じ手に乗るか」
イビキはガオーを発射し、やはりマコも黒こげに。
檻では、宝箱の中からガイコツが出てきた。
ネムリン「ガイコツきらーい!」
ガイコツは笑い声とともに「おらガイコツ」という。ネムリンはパニック。
玉三郎の部屋で「♪胸にほほをうずめ〜」と唄っていると、ドアがひとりでに開き、イビキが。イビキのガオーで、玉三郎も黒こげに。イビキはマイクを奪い、挿入歌「寝不足怪人イビキ」を唄う。
イビキ「なんか文句あっか」
檻ではガイコツが踊り、逃げ惑うネムリン。その下ではあのモグラが、布団をかぶって寝ていた。
ネムリン「誰か〜助けて〜」
地面にぼこっとモグラがまた顔を出す。
モグラは「あ〜」と鳴く。するとガイコツは「おらモグラ嫌い」と、宝箱に収まった。モグラは「うるさい」と書かれた紙を見せる。モグラは地中を堀り、ネムリンもその後をついていった。やがて小屋の前に出て来るモグラとネムリン。
大岩家ではイビキが、みなを縄で縛り、鞭で叩いたりくすぐったり、あごをつかんだりしていたぶっていた。
イビキ「ぶひんって鳴いてみろ」
パパは「イビキさま」と哀願。
イビキ「ゆっくり時間をかけて!!」
パパ「後生です、やめてください」
イビキ「寝不足にしてやる!」
そこへ「こらーイビキ」とネムリンが飛んでくる。
イビキ「よくあそこから」
ネムリン「当たり前だ。お前にやられるようなネムリンじゃないわい」
イビキ「こしゃくな」
ネムリン「ママ、ふくらまし粉は?」
ママ「台所の戸棚の中」
イビキはガオーを発射。ネムリンが角笛を吹くと、棚からふくらまし粉が浮かび上がる。ふくらまし粉はガオーにかかり、イビキは微妙に巨大化したガオーの下敷きに。
イビキ「つぶされる〜」
ネムリンは「やっつけるっちょ」とみなの縄を解く。怒った4人はイビキを袋叩きに。
その夜、ベッドで寝ているマコの横で思案中のネムリン。
ネムリン「ミミズがいいかな、それとも芋虫かなんか。マコ、どう思う?」
マコ「知らないわよ、モグラのお礼なんか」
電気を消して寝入ったマコ。
ネムリン「いまの季節は熱燗に湯豆腐のほうがいいかな?」
やがてネムリンも「ねむねむねむ」と寝入ってしまう。
モグラはやはり地中で寝ていたが、目覚まし時計で起きる。酒を飲むも、徳利の中はからっぽ。
モグラ「酒持ってこい!」
【感想】
第23話ではネムリンと共闘していたイビキが、最後の挑戦に打って出る。“イビキ・サーガ”の最終編である今回は、イビキが大岩家で虐待された後に逆襲に転じたりモグラが活躍したり、それなりに趣向が盛りだくさんで、イビキの強烈キャラを改めて印象づけた(あの後イビキはどうなったのだろう)。
序盤ではパパとママが玉三郎はどっち似かで喧嘩しており、恒常的に玉三郎のことで夫婦喧嘩しているように言われているけれども、前例は第23話くらいだったような(ただし第22話でも玉三郎とは関係なく、喧嘩はしている)。不思議コメディーシリーズの前作『ペットントン』(1983)でも主人公の家は喧嘩が絶えなかったので、夫婦ねたはもう鉄板という感もある。
第24話ではタコなどの海産物が多数登場した際には実際の茹でダコを用いて映像化していて驚かされたが、今回のモグラはさすがに本物を登場させるのは困難だったようで、パペットの人形が使われた。リアルな人形を製作する手もあったはずだけれども、画面に現れたのはEテレの人形劇にでも出てきそうなデフォルメされたモグラで、世界観の不統一ぶりには笑うしかない(監督同士の連携もなかったのだろう)。脚本の浦沢義雄先生は不コメの監督陣について「どんな脚本でも、なんとかして撮っちゃうから(笑)」(DVD『美少女仮面ポワトリン』Vol.2)と形容していたが、おそらく台本にはただ「モグラが出てきてプラカードを掲げる」ぐらいしか指定がなかったに相違ない。『ネムリン』などを見ていると、知恵を絞って何とかアナログで映像化してやろうという、ある熱気が感じられる。約20年後の浦沢脚本『美少女戦麗舞パンシャーヌ』(2007)には主人公がナマコに姿を変えられて家事をするというシーンがあったけれども、本物のナマコの入った水槽をキッチンにただ放置しているだけで、その貧困なる演出にはファンとして落胆した覚えがある。
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大井利夫監督は『ペットントン』にてデビューし、『ネムリン』では助監督と兼任で第9話と第10話など4本を演出。今回は夫婦喧嘩の場面などで魚眼レンズを使ったり、イビキがネムリンに飛びかかった後で話すシーンを約1分20秒の長回しで処理したり、凝った演出が見られる(『ペットントン』第43話でも長回しのシーンが印象的だったが、この時期の大井監督のこだわりかもしれない)。ラストカットでネムリンとモグラとに画面を分割しているのも、80年代のドラマとしては新鮮な気がある。
今回はイビキ以外のゲストはモグラくらいで、前回(第26話)につづいて大岩家の面々がメイン。これから最終話まで大岩家の話がつづき、いよいよフィニッシュが近いことが判る。終盤で主人公家族にスポットが当たるのは、この時期の非バトル路線の不コメならではであろう(不コメ後期の『美少女仮面ポワトリン』〈1990〉や『不思議少女ナイルなトトメス』〈1991〉、『有言実行三姉妹シュシュトリアン』〈1993〉などはバトル物なので、終盤は敵役との戦いが主に描かれた)。
パパとママがネムリンと三つ巴の喧嘩になり、ネムリンをつかまえようとした拍子に手を握ってしまうあたり、おそらくアドリブでチームの円熟を感じさせる。
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