『どきんちょ!ネムリン』研究

『どきんちょ!ネムリン』(1984〜85)を敬愛するブログです。

第23話「受験生の敵 バーカ!」(1985年2月3日放送 脚本:浦沢義雄 監督:佐伯孚治)

【ストーリー】

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 いっしょに寝ているマコ(内田さゆり)とネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)は布団を引っ張り合う。

マコ「寒いじゃないの!」

 ふたりが喧嘩になりかかっていると、外から「玉三郎、やめなさい!」というパパ(福原一臣)の声が。

 

 庭では玉三郎(飛高政幸)が合格祈願のお札を焼こうとしていた。止めるパパ。

パパ「玉三郎、堀越の受験日あしたなんだぞ」

玉三郎「おれ、目ざめたんだ。自分の力で堀越に入らなければ、何の意味もないことを」

 驚くパパ。

玉三郎「おれ、必ず自分の力で堀越へ入ってみせる」

 パパはお札を放り投げて、玉三郎を抱きしめる。玉三郎は凜々しい表情で「堀越へ入ろう〜」と唄う。

 そのさまを2階から見ているネムリンとマコ。

マコ「なあに、あのくささ。まるで堀ちえみ

ネムリン「そうか? ネムリンはちょっと感動したけど」

マコ「ネムリン、あんた最近ださくなったんじゃない?」

 「ムカー」とネムリンは怒り、マコは笑う。

 

 朝の食卓では、パパから話を聞いたママ(東啓子)が涙を流す。がつがつ食べる玉三郎と白けた顔のマコ。玉三郎が起立する。

玉三郎「食事の途中だけど、話がある

パパ・ママ「ん」

玉三郎「みんなも判っているように、おれ、いまの学力じゃ堀越ほとんど無理かもしれない」

 パパとママはズコー。

ネムリン「玉三郎、そんなことないよ」

マコ「ネムリン、せっかくお兄ちゃんが現実を冷静に見つめてるのに」         

玉三郎ネムリン、きょうのおれにはお世辞はいらない」

ネムリン「あ、そう」

玉三郎「おれ、賭けてみたいんだ」

ネムリン「何に?」

玉三郎「一夜漬け」

 

 ネムリンは桶に入った玉三郎を思い浮かべる。

玉三郎「ぼく、玉三郎の一夜漬けです」

 

ネムリン「一夜漬けより樽漬けのほうが」

 マコはネムリンにつっこむ。

マコ「お兄ちゃんは受験勉強の一夜漬けをするつもりなの」

玉三郎「おれ、この一夜漬けのすべての頭脳とすべての体力を賭けて、あしたの堀越のテストの挑戦してみたいんだ」

 パパとママは拍手。ネムリンは、みなのごはんやおかずを玉三郎の前へ運ぶ。がつがつ食べる玉三郎に、パパとママは改めて拍手。マコはため息。

 

 美容院にて、ママがキョウコ(石田沙織)に玉三郎のことを嬉しげに話していた。

ママ「ようやく目ざめたっていうか芽生えたっていうかね」

 「実は私、心配してたんですよ」と言い出すキョウコ。

キョウコ「玉三郎くんが、あのまま成長して社会に出たら」

ママ「出たらどうなるの?」

 「私、怖くて」とキョウコは顔を歪めて泣き出す。

ママ「怖い…?」

 

 ママが唄いながら帰宅。すると「ネムリン、お前のせいだぞ!」というパパの声。

パパ「お前があんなに食べさせなければ」

 ママが来ると、パパは嘆くパントマイム。

 

 机に向かった玉三郎は寝ていた。ママは玉三郎のほほを叩き、耳元で「玉三郎ー!」と叫ぶ。

ママ「あなたも起こして」

パパ「それが何をやっても起きなくて」

 パパはグローブやヘルメットで玉三郎の頭を叩くも起きない。

パパ「ほらね、この通り」

 ママはバットを取り出して叩こうとする。

パパ「ママ、やめなさい、やめなさい! 金属バットだけはやめなさい!!」

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 居間にいるマコとネムリン。

マコ「だいたいお兄ちゃんが勉強しようとするとすぐ寝ちゃうのは体質なんだから、いまさら慌てても」

ネムリン「そう、その通り」

マコ「ネムリン、あんたってほんとに調子いいのね」

 マコはネムリンに反省しろと迫る。「反省する」と言って寝入るネムリン。そこへ2階から憤然と降りてきたパパとママが、玉三郎はどっち似かで喧嘩に。

ママ「養子のくせに」

パパ「そうだよ。ああ、そうだよ。おれは養子だよ養子だよ」

ママ「すぐいじけんだから、男らしくないわよ」

パパ「そうだよ、おれは男らしくないよ。お前は立派な男だよ」

ママ「ああっ男って言った。結婚したてのころは、私のことかわいい白雪姫ちゃんって言ったくせに」

パパ「7人の小人と間違えたんじゃねえか」

 ママはパパをひっかき、取っ組み合いに。

マコ「ネムリン、行こ」

 

 公園でブランコに乗って、沈んだ面持ちのマコ。

ネムリン「マコのやつ、何だかんだって強気になって言ってるけど、やっぱり悲しいんだ。そりゃそうだよな。パパとママが喧嘩して嬉しい子どもなんて…。それに比べて玉三郎ときたら、まったくもう」

 ネムリンは、玉三郎を勉強させ、パパとママを仲直りさせることを決意。

 マコは「ママが悪い、パパが悪い、ママが悪い、パパがいい、ママがいい…」とつぶやきながら池に石を投げ込んでいた。

ネムリン「マコのやつもけっこうくさいことするじゃん」

 

 交番で警官(井上智昭)がうどんを食べていた。

ネムリン「こら警官。最近イビキ見かけなかった?」

 うどんをほおばりながら、何か言う警官。

 

 イビキは焼肉屋で皿洗いのバイトをしていた。

イビキ「ああ、ひゃっこいひゃっこい。どうしておれがこんなアルバイトをしなきゃいけないんだ。おれは全人類を寝不足にするという、とっても崇高な野望を抱く怪人イビキのはず。それがこんなカルビやらロースやらのおこげを落とす、時給380円の仕事をしなきゃいけないなんて。あーあ人生はビビンバクッパ

 そこへ「お久しぶりぶり」とネムリンが。逃げ出すイビキ。

ネムリン「どこ行ったのかな」

 ネムリンが角笛を吹くと、マッチに火がつき、鉄板の上に肉が飛んでいく。

ネムリン「いいにおい飛んでけ」

 ネムリンがうちわで扇ぐと、匂いに誘われたイビキが現れる。ネムリンは角笛でイビキの頭を攻撃。

ネムリン「イビキ、どうして逃げたんだよー」

イビキ「こういう零細企業で働く姿、ライバルのお前に見られたくなかったからよ。いてて、いててて」

 

 ネムリンは四つん這いのイビキの首に縄をつけて、引っぱってきた。

イビキ「ネムリン、おれをどうするつもりだ」

ネムリン「いいから黙って来い」

 

 大岩家の居間で、一転してふんぞり返っているイビキ。

イビキ「事情は判りました。私の強力なイビキで、玉三郎くんを眠りから覚ませばいいんですね」

パパ「イビキ先生、よろしくお願いいたします」

 頭を下げるパパとママ。

ママ「このままじゃ玉三郎が堀越に。ただでさえバカな子なのに」

ネムリン「好きだなあ、そういうの。正直で」

 イビキは満面の笑みを浮かべる。

イビキ「まあ、何とかしましょう」

 イビキはネムリンのほうを向いて、首の縄を指し「これ、何とかしろよ」と地声で言う。

 

 部屋で「堀越…」と言いながら爆睡中の玉三郎。イビキは玉三郎のあごをつかむ。

イビキ「あはははははは、起こしても堀越、無理なんじゃないの?」

ネムリン「イビキったらー!」                                                               

イビキ「判ってるよ。起こせばいいんだろ、起こせば。起こしますよ」

 イビキは「イビキ文字弾」を発射するが、ガオーという文字は玉三郎の周りを旋回するのみ。

イビキ「玉三郎、起きろー」

 イビキはガオーの文字で玉三郎を叩くが、文字は割れてしまう。

イビキ「あっしの文字弾ちゃんがバラバラに…」

ネムリン「だめじゃないか、イビキ!」

 イビキは「この眠りはただの眠りじゃないぞ」と言い出す。

ネムリン「お前もそう思うか?」

 イビキは聴診器を玉三郎に当てる。

 

 居間で「ネムリン病?」と驚くパパとママ。大まじめな顔のイビキ。

イビキ「お父さま、お母さま。現代医学では絶対治らないというおそろしい病気です」

 ネムリンが「ほんとか」と問うと、

イビキ「ネムリン、疑ぐってる場合じゃない。病気の原因はお前なんだ」

ネムリン「いー!?」

イビキ「お前から発生したネムリン菌が伝染して、玉三郎くんはネムリン病になった」

ネムリン「嘘だ、嘘だ嘘だ」

イビキ「お父さん、お母さん。こういう場合親として、怒るのが務めかと」

 余裕の笑みを浮かべるイビキ。

ママ「ネムリン、うちの玉三郎をどうしてくれるの」

パパ「貴様、うちの玉三郎に何の恨みがあって」

ネムリン「そ、そんな病気あるわけないっちょ」

 パパとママはネムリンを追いかける。

イビキ「あっはは、いっひひ、うっふふ、えっへへ、おっほっほほほ」

 

 公園へ逃げてきたネムリン。

ネムリン「イビキのやつ、ネムリン病だなんて」

 

 イビキはパパとママにお茶を出される。

ママ「どうぞ」

パパ「イビキ先生、お食事のほうは?」

イビキ「そうね、天ぷらそばでもとってもらおうか」

 いそいそと電話をかけるパパ。

イビキ「ぼく、上しか食べないから」

 笑顔でうなずきつつ「まったく」とつぶやくパパ。

ママ「あのう、イビキ先生。玉三郎のほうは…」

イビキ「だいじょうび。現代医学で治らなくても、私にはイビキの漢方医学がある」

 そこへネムリンが「パパ、ママ、そんなもんないよ!」と帰ってきて、イビキの顔にキック。

ネムリン「イビキ、こっちだ。こっちだ」

イビキ「このヤロー」

 

 玉三郎の部屋へ追って来たイビキ。ネムリンが角笛を吹くとイビキの全身が光る。

ネムリン「イビキを玉三郎の頭の中へ引きずり込んで、寝ている玉三郎の代わりに勉強させるんだ」

 イビキは逃げようとするが、光の粒子と化したネムリンに「こっち来い!」と連れて行かれる。

 

 玉三郎の頭の中へ来たイビキとネムリン。

ネムリン「さあ、べんきょべんきょ!」

イビキ「おれ勉強だめだって。勉強嫌いなんだって。お、お、おおお? 玉の頭の中って空っぽなのな」

ネムリン「だから代わりをやるんだよ」

 上から参考書が降ってくる。すると「バーカ」との声が。中空で「バーカ、バーカ」と何かが光っていた。イビキはイビキ文字弾をぶつけると、てるてる坊主のような格好の男(山崎清)が転落。

ネムリン「何だ、お前?」

 男は「バーカ。バーカ。バカバカバカ」と跳ね回る。

ネムリン「イビキ、判ったぞ」

イビキ「何が?」

ネムリン「玉三郎がこれまでバカだったわけが」

イビキ「え?」

ネムリン「あいつが頭に棲んでたから、玉三郎はバカだったんだ」

イビキ「じゃあいつを倒せば、おれが勉強しなくて済むんだな」

 「バーカ」と踊る男。

ネムリン「イビキ、あのバーカをやっつけろ」

 ネムリンはイビキをぽかぽか叩き、イビキは「判ったよ」とまたガオーの文字弾を発射。ガオーがバーカを追い回す。

ネムリン「出てけ、バーカ!」

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 部屋では玉三郎が痙攣。パパとママが「玉三郎!」とほほを叩いていると、頭からイビキとバーカが飛び出す。

バーカ「バーカ、バカバカ」

イビキ「なめやがって」

 イビキは文字弾を手でつかみ、バーカを追い回す。両者の攻防に、「ななな何だお前」と翻弄されるパパとママ。バーカは部屋の外へ逃げ、イビキは追っていく。

パパ「何だありゃ」

 いつの間にか出てきていたネムリン。

ネムリン「パパママ、もう大丈夫。玉三郎はほんとに立ち直ったよ」

 ネムリンが角笛で叩くと、玉三郎は目を開ける。

玉三郎「パパ、ママ…。いけね、勉強しなくちゃ!」

 玉三郎は笑顔で「何だかおれ、突然頭がよくなったみたい」と机に向かう。

ネムリン「ほーらね!」

 パパとママは邪魔にならないように、そうっと部屋を出て行く。

 

 夕食どき、「信じられないわ」と言うマコ。

ママ「信じられなくても、私は玉三郎がやる気を起こしてくれただけでも。ねえ、あなた」

パパ「ああ、玉三郎だってその気になれば」

 ネムリンも「もうだいじょぶだよ。何しろ頭からバーカがいなくなったんだもん」と太鼓判を押す。みなは2階を見上げて「がんばれよ」と叫ぶ。

 だが部屋では、ベッドで玉三郎が爆睡していた。

【感想】

 “イビキ・サーガ”は受験シーズンだけに受験話で、イビキと玉三郎のあくの強いコラボ?が。第12話などでの熾烈な戦いから幾星霜、第15話第19話ではいいようになめられていたイビキが、一応は逆襲に転じてネムリンを大岩家から追い出そうとする(ほどなく鎮圧されるが)。そしてクライマックスではネムリンとイビキの共闘も実現し、うまく趣向を変えたなと感嘆。

 第12話では不条理劇の舞台のような豪勢な?基地に潜伏していたイビキもやがて難民キャンプ、土管住まいと零落し、いまは焼き肉屋で現在の東京都の最低賃金を下回るブラックバイトをして糊口を凌ぐ。ロケ先の焼き肉屋さんの松寿苑という屋号が映っているにもかかわらず劇中で「時給380円」だの「零細企業」だのと放言するのには、いつもながら感心させられる(この店は、不思議コメディーシリーズでは『じゃあまんん探偵団魔隣組』〈1988〉の第3話「父さんはライバル」や『有言実行三姉妹シュシュトリアン』の第27話「紫外線の正体」などにも登場)。 

 大岩家の面々は今回も息の合ったコントを展開し、前回につづく喧嘩のシーンも笑えるが、「金属バット」の台詞は金属バット事件の4年後だけにひやりとする。近い時期のコメディタッチの映画『家族ゲーム』(1983)でも金属バット事件が言及されて『逆噴射家族』(1984)ではバットが画面に映るが、このように不謹慎にねたにしてしまうのが不コメに限らず昭和期の笑いで、いまの感覚で見ると驚かされる。

 ヘルメットで叩かれてもはたかれても起きない玉三郎役の飛高政幸氏もすごいが、家庭の荒廃ぶりを目の当たりにしてマコが落ち込むシーンは、第20話につづいてドライな彼女の意外に脆い面が出てきてなかなかいい。

 今回は不コメの常連ディレクターで幾多の傑作エピソードを手がけた名匠・佐伯孚治監督が『ネムリン』に初登板。佐伯監督は『ロボット8ちゃん』(1981)や『バッテンロボ丸』(1982)なども撮っているが、この時期は平行して映画『高原に列車が走った』(1984)や不コメのスピンオフ的な『TVオバケてれもんじゃ』(1985)などに登板しており、不コメの担当話数は決して多くない(『ネムリン』も今回と第24話のみ)。後年の『おもいっきり探偵団覇悪怒組』(1987)や『美少女仮面ポワトリン』(1990)ではメインディレクターを務め、シリーズを支えた。『ネムリン』の植田泰治プロデューサーとは不コメ以外でも『高原に列車が』や月曜ワイド劇場『逆転無罪』(1983)などでも組んでいる。ご本人は浦沢脚本以外のときは「生真面目なスタイル」と自己分析しているけれども(「東映ヒロインMAX」Vol.8〈辰巳出版〉)いかれた浦沢脚本を「生真面目」に映像化してみせるという、ある意味で「天然」な魅力を発揮した。 

 余談だが佐伯作品で特に知られるのは『帰ってきたウルトラマン』(1972)の第48話「地球頂きます!」。『3年B組金八先生』シリーズ(1979〜2004)により知られる小山内美江子脚本が皮肉っぽいシュールコメディーを描き、佐伯演出はそれをストレートに映像化。結果的にウルトラシリーズ屈指の笑い満載の怪作が完成した。佐伯演出による『帰マン』第42話「富士に立つ怪獣」(石堂淑朗脚本)のクライマックスもアナーキーで、佐伯監督はトンデモ脚本を撮ると持ち前の「生真面目」さが作用するのか破壊力が増大する傾向にある。「地球頂きます!」ではしゃっくりなど効果音がユニークだったが、今回もイビキの文字弾ガオーが止まるシーンでブレーキ音がしていて、芸が細かい。 

 イビキ役の佐藤正宏氏は、大岩家でふんぞり返るシーンではいきなり渋い声に。第19話でも突然声を変えており、笑わされる。

 怪人バーカは、ビビアンのスーツアクターを務める山崎清氏が怪演(顔出し出演は学生役で登場する第13話以来)。それゆえか今回はビビアン(とモンロー)はお休みだった。氏は同時期の『てれもんじゃ』の第6話「恐怖の音声多重総天然色カラーボーイ」にも今回と似たような扮装でゲスト出演している。

 美容師のキョウコは第20話につづく登場。20話では美容室でモンローを担当していて、台詞はなかった(ママの行きつけのお店だからモンローも行ったということなのだろう)。