
【ストーリー】
ネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)は飛び回って、布団叩きで洗濯物を叩いていた。挿入歌「ストップ・ザ・ネムリン」が流れる。ママ(東啓子)がネムリンを呼び、着物の帯の締め方はどうかと尋ねる。
ネムリン「ママ、初めての仲人がんばってね」
パパ(福原一臣)はネクタイを締めながら、挨拶を確認。
ママ「あ、それからお酒のほう」
パパ「判ってますよ」
ママ「もう結婚式っていうと、すぐがぼがぼがぼがぼ」
ネムリン「そうそうそうそう」
パパ「そ、ただ酒だから」
ママ「あなた!」
パパ「そう、お酒も挨拶も控えめ控えめ」
ネムリンに「パパ、ママ。時間ないよ」と言われたふたりは慌てる。
公園で、中山(岩国誠)がマコ(内田さゆり)に迫っていた。
中山「マコちゃん、お願い!」
マコ「中山さん。私、観音さまじゃないんだから、お祈りしないで」
中山「そこを何とか」
マコ「なりません!」
中山「じゃあ、このアイススケートの切符、どうすればいいんですか?」
マコ「お兄ちゃんと行けば?」
中山「玉三郎くんと?」
マコ「親友でしょ」
中山「できれば、今年こそ玉三郎くんと親友やめたいんだけど」
マコ「あ、言っちゃおう」
中山「マコちゃん」
中山はマコの腕をつかむも、はらいのけられる。
マコ「何しろ私、きょうアイススケート行ってる暇ないから」
中山「じゃああした!」
マコ「あしたも暇ない」
中山「じゃああさって」
ため息をつくマコ。
中山「その次の日でもいいよ。じゃあその次の次の日。だったらその次の次の次の日」
マコ「中山さん! いい加減にしてよ」
中山「ぼくはいい加減にしない!」
マコは周囲を伺ってから、中山の手を握る。中山が笑ったその瞬間、マコは「えい!」と中山を投げ技で放り投げる。頭からごみかごに突っ込んだ中山を放置して、去っていくマコ。
居間で昼寝中のネムリン。そこへ絹を裂くようなマコの悲鳴が。起きたネムリンが行くと、ビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター:山崎清)がモンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)にメイクを施していた。
モンロー「おら、化粧してもらってるだ」
口紅と頬紅で、凄まじい顔のモンロー。
ネムリン「どきんちょ!」
モンロー「おら、美しくなりてぇ」
ひっくり返るネムリン。
ビビアン「いやモンローったらね、誰かに恋をしているらしいのよ」
「ちょー恋を!?」と目を白黒させるネムリン。
公園のステージでは、玉三郎(飛高政幸)が「♪堀越へ入ろう〜」と唄う(挿入歌「夢のサクセススクール」)。中山ひとりが聴いていて拍手。
玉三郎「ところで中山、話は変わるが、お前うちのマコに手出しただろう」
中山「何すんの。出してないよ」
玉三郎「マコもそう言ってた。足を出したな」
中山「何すんの。出すわけないだろう、そんなもん」
玉三郎「じゃあ、やっぱりおれの思った通りだ。お前うちのマコにしっぽ出したな」
玉三郎は「マコに見せてどうしておれに見せられない?」と中山のズボンを脱がせようとする。
そこへネムリンとモンローが歩いてくる。
ネムリン「誰なんだ、教えろよ」
モンロー「おら、知らねぇ」
中山のズボンをつかむ玉三郎を見たモンローは、果敢に向かっていき、玉三郎を吹っ飛ばす。今度は玉三郎がドラム缶に頭から突っ込まれる。
中山「ありがとう、モンロー」
微笑む中山。照れるモンローは「モンロー!」と行ってしまう。
ネムリン「まさかあいつ…」
ネムリンは横目で中山を見る。
川原へ来たモンローは叫ぶ。
モンロー「中山さーん」
「ちょー」と驚くネムリン。
ネムリン「モンロー、お前中山のどこが好きなんだ?」
モンロー「どこって…すべてだ」
衝撃のあまり、ネムリンは「あちょー」と土手をころころ転がり落ちる。
居間で嬉しげなマコ。
マコ「モンロー、がんばってね!」
モンロー「ん〜」
ネムリン「そりゃマコは、モンローが中山とつき合えばこれから中山につきまとわれなくても済むかもしれないけど」
マコ「ネムリン、誰にでも愛する権利はあるのよ」
モンロー「愛する権利!」
マコ「3日ぐらい前、『3時のあなた』で森光子が言ってたわ」
ネムリン「ふん、あのおばさん、ときどきくだらないこと言うんだから」
モンローは「おら、中山さんのためにも美しくなりたい!」とテーブルをぐらぐら揺らし、マコとネムリンは「こぼれるわよ」と慌てる。

モンローは、美容とシェイプアップのためにエアロビクスに挑戦。ネムリンは「モンローがんばれ」「モンローがまんがまん」「ファイトファイト」と発破をかける。モンローは顔パックもする。
モンロー「綺麗になったか?」
ネムリン「まあまあかな」
モンローは「♪中山好みの中山好みのモンローになりたい」と唄いながら、「かわゆい、くださいなー」と口紅を購入。
公園で花を渡される中山。
中山「え、マコちゃんがこれをぼくに?」
首を振るネムリン。
ネムリン「おーい、出て来いよ」
リボンをつけて、目いっぱいおしゃれしたモンローが茂みから登場。面食らう中山。
中山「モンロー、少し熱でも?」
ネムリン「ない! モンローは至って真面目だ」
ネムリンは「お前に恋してるんだ」と告げ、中山は「は?」。
ネムリン「モンロー、お前からはっきり言えよ」
モンロー「ア・イ・し・てる〜」
モンローは中山にしがみつく。
ネムリン「やったやったやったー」
中山「何がやっただよ。ネムリン、ばかにするのもいい加減にしてくれ。そりゃぼくはマコちゃんにふられてるよ。でもそうだからといって何もモンローがぼくのこと愛することないだろ。こんな怪物が人を愛するなんて、ネムリン! 愛されたほうはどんなに迷惑するか」
ネムリンは「どうしてモンローが愛しちゃいけないんだよ!?」と激怒。
中山「いけないものはいけないんだ」
ネムリンは「もう許さない!」と中山をキックしようとするが、「あぶない!」とモンローが身代わりに。
ネムリン「あっ」
モンロー「ネムリン、悪いのはみんなおらだ。中山さんに罪あねえ」
中山「モンロー」
モンロー「中山さんに罪あねえ」
中山「そんなに」
モンロー「中山さんに罪あねえ」
中山「ぼくのことを」
モンロー「中山さん」
「モンロー」「中山さん」と見つめ合うふたりは、抱き合う。
こたつでネムリンから話を聞いたマコは「嘘でしょ」「ばかばかしい」と取り合わない。すると「いっそセレナーデ」が流れ出す。
「♪あまい口づけ 遠い想い出」
庭では中山とモンローが、ラジカセをかけながら手を握りあっていた。窓から見たマコは、不機嫌になって窓を閉め、ソーセージを食べる。
ネムリン「どうしたんだ?」
マコ「うるさい!」
ビビアンが「ねえ、見た見た?」と入ってくる。
ビビアン「どうなっちゃってんの、あのふたり。中山とモンロー」
マコはビビアンの手をつかみ「えい!」と投げ技で放り投げる。
ネムリン「マコ」
つづいて玉三郎が。
玉三郎「マコ、中山の奴、どうやらモンローを」
マコは間髪入れず、玉三郎を放り投げる。「あー」と玉三郎は投げられ、ビビアンといっしょに気絶。そしてマコはネムリンも放る。
庭へ出たマコは「帰ってよ!」と布団叩きを振りかざす。
中山「マコちゃん、ぼくたち」
モンロー「愛し合ってるんです」
恍惚とした表情のふたり。「愛し合ってるんです」の台詞にエコーがかかる。マコはふたりを食い入るようににらみつけると「えい!」「出てってよ!」と布団叩きでふたりに殴りかかる。
中山「やめてよ」
モンロー「痛い痛い」
マコ「中山さん、帰ってよ!」
驚くネムリン。
ネムリン「マコ、いったいどうしちゃったんだ」
ネムリンは「何とかしなくちゃ」と角笛を吹く。物干し棒が宙に浮かんでマコのトレーナーの袖を通り、マコは引っ張り上げられる。

マコ「ネムリン、何すんのよ。下ろしてよ!」
ネムリンはマコの前に飛んでくる。
ネムリン「マコ、落ち着いて。落ち着いてってば!」
マコ「あんたになんか関係ないでしょ」
ネムリンはマコを平手打ち。茫然としたマコは、目を潤ませて泣き出した。ネムリンはうなずいて「判ったよ、よしよし」。黙って見ているモンローと中山。ビビアンと玉三郎も無言で、2階の窓からことの次第を見つめていた。
夜になって、酔っぱらって帰宅したパパとママは「♪二人のため 世界はあるの〜」と踊って熱唱。玉三郎は「幸せ」と持ち帰った余り物の料理を食べ、モンローにはビビアンが食べさせてあげていた。
部屋でいっしょに寝ているマコとネムリン。
マコ「ああいうのって、やっぱりジェラシーっていうのかな」
ネムリン「マコ」
マコ「なあに」
ネムリン「ほんとは心のどこかで中山のことを」
マコ「冗談じゃないわよ、あんなの」
ネムリン「わかんないぞ、これだけは。何しろ愛とか恋とかいうやつは」
寝入っているマコ。ネムリンは「マコどんな夢見るのかな」と角笛を吹く。
夢の中でマコはみんなとスケートに来ていた(中山の切符を使ったとおぼしい)。笑顔のマコ、ネムリン、玉三郎、中山、ビビアンそしてモンロー。こけてしまったモンローを助け起こそうとみなは集まる。微笑ましい仲良しグループの情景に、ふたたび「ストップ・ザ・ネムリン」が流れた。
【感想】
イビキとネムリンとのアホな攻防が描かれた前回から一転、今回はモンローと中山との異形の愛にマコがからむというドラマティックな愛憎劇。初見の際にも面白いと思ったエピソードだが、改めて見直して間然としない出来映えに感嘆(『ネムリン』は再見時のほうが面白く感じることが多い)。ゲイ展開はこの時期の浦沢義雄脚本のお家芸だけれども、それが意外なクライマックスにつながるのには驚かされ、筆者個人としては『ネムリン』の到達点と言うべきエピソードである。
浦沢脚本は人物像を深めることに関心がないゆえか、その回の都合によって人物の性格や関係性を一変させることがままある(第9話など)。第11話では中山を叩きのめしていたモンローが今回は突如中山を愛するようになり、相思相愛に…。
シリーズの序盤から中山をうざがっていたマコは、中山とモンローがラブラブになると急に怒り始める。浦沢脚本では後年の不思議コメディーシリーズ『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)の第16話「川崎大三郎の秘密」でも、ゲストの女の子が自分に言い寄る男子を蛇蝎のごとく嫌っていたのに、そいつに彼女ができてラストで写真を見せられるや破り捨てていた。今回は愛の不条理さを感じさせる同様の展開がクライマックスに配置され、シリアス性が強まっている。
ビビアンが第9話や第15話で目立っていたのに対して、相棒のモンローはあまり見せ場がなく、本格的な主役回は唯一だろうか。中山も第6話や第13話では奇人ぶりを発揮していたものの最近は出番に恵まれていなかったので、埋め合わせになった感もある。そして意外なことにヒロインであるマコも、登場シーンの多さの割りに見せ場は少なかった(これまでマコ主体でドラマが描かれたのは第1話や第9話くらいか)。第19話でうたた寝していてはっと起きるなど、マコを演じる内田さゆり氏の芝居は技巧が高く、今回はまさに水を得た魚のようである。
今回特徴的なのが、伏線というと大げさだが、細部の気配りがあってエピソード全体の統一感がある点。序盤と幕切れに挿入歌「ストップ・ザ・ネムリン」が流れて、恋の話だけに?パパとママの出かける理由は仲人。クライマックスの布団叩きは、やはり序盤でネムリンが使っていて前振りがある。ラストの夢ではみなでスケートに来ているけれども、前半にて中山がマコをスケートの切符があると誘っている。浦沢義雄脚本は宮崎駿アニメなどと同様に勢いと思いつきで作品を構成するタイプでその発作的な分裂ぶりが面白いのだが、一方で伏線も実に巧緻(監督やスタッフの配慮かもしれない)。
中山とモンローが見つめ合う場面では井上陽水「いっそセレナーデ」が流れ、ネムリンは「中山とモンローだ」とつぶやく。浦沢作品では今回や映画『仮面ライダー世界に駆ける』(1989)など、劇中に歌曲が流れて耳にした登場人物がそれに反応することがあり、人物の心情を描かないで歌で展開を動かしてしまうわけで、斬新で類例のない仕掛けには驚嘆する。陽水の「いっそセレナーデ」は、不コメでは『勝手に!カミタマン』(1985)の第28話「ネモトマン 涙の兄妹愛」でも使用された。
同時撮影である前回のばかばかしさとは異なり、クライマックスの盛り上げは圧巻。悪夢的に凝った画づくりの第12話、ゆるいコメディの第19話、怒濤のごとく盛り上げる今回とテクニックを使い分ける坂本太郎演出の凄腕には敬服する。
挿入歌「ストップ・ザ・ネムリン」(作詞:浦沢義雄 作曲:本間勇輔)は「♪おれは恨む〜」とネムリン役の室井深雪氏が唄うせつない名曲だけれども、今回で初登場とはいかにも遅い。『ネムリン』では愉快な挿入歌がいくつもあるのだが、すべて後半に入ってから流れていてもったいない。当初は1年放送の予定で、挿入歌の制作も遅かったのだろうか(「堀越へ入ろう」と唱える怪曲「夢のサクセススクール」も劇中で飛高政幸氏が歌っている)。
玉三郎が唄うシーンは第7話でも似たシーンが撮られた石神井公園。モンローがシェイプアップに励むのは高田馬場にあるBIG BOX。夢のスケートの場面は後楽園アイスパレスで撮られている(前回にも後楽園ゆうえんちが出てくるので、その際に撮ったのであろう)。
ラストシーンが夢というのは、いかにも本作らしくていい。夢の中でマコは中山の持っていた切符でみんなとスケートに行ったのかと思うと、余韻がある…。



