第19話「激突!イビキミサイル」(1985年1月6日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)
【ストーリー】
お正月の大岩家ではパパ(福原一臣)、ママ(東啓子)、マコ(内田さゆり)、玉三郎(飛高政幸)が浮かない顔でお雑煮を食べている。ネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)は「お待たせ〜」と元気に来るが…。
ネムリン「ぎょ〜またおもち!」
パパは「まだおもちがこんなにある」と段ボールに入ったおもちを見せて「めしが食いたい! あ〜めしめしめしめし」と叫ぶ。
ママ「あなた! 調子に乗って見栄張って、こんなにおもち買ってきたのあなたですからね」
怒りのこもった目でうなずくマコと玉三郎。
パパ「すいません…」
こたつでみかんを食べているマコ。ネムリンは外へ遊びに行こうと誘う。マコは拒否。
マコ「寒いもん」
ネムリン「そんな年寄りくさいこと言わないでさ、遊びに行こうよ。ね?」
マコ「(年寄り口調で)ネムリンや、いま何か言ったかや?」
ネムリン「マコばあちゃん、長生きしろ。年金の代わりだ!」
ネムリンはみかんの皮をつかむと、マコの口に押し込む。
玉三郎は自室で堀越学園の募集要項を広げて「♪足音高く〜ああ堀越の〜堀越健児〜」と校歌を熱唱。ネムリンが「遊ぼ! 玉ちゃん、遊ぼ!」と来る。玉三郎は両手でネムリンをつかむと「出てけー」と放り出す。ネムリンは「あー!」と2階から吹っ飛び、壁時計にぶつかる。
ソファで昼寝していたビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター:山崎清)とモンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)が「うるさいなあ」と起き出す。
ネムリン「ようビビアン、モンロー。遊びに行こうぜ」
ビビアン「えーもう、バカ言わないでよ。この寒い外に誰が遊びになんか行くもんですか」
怒ったネムリンは角笛を吹き、人形にされたビビアンとモンローは浮かび上がって、流しの洗い桶にぼちゃんと落ちる。
「♪ネムリン喜び庭駆け回る マコはこたつで眠くなる」と歌いながら公園へ飛んできたネムリン。
ネムリン「どいつこいつも寒さが何だってんだ。うぅーあぁーやっぱり寒いわ」
そこへ「あっあっあっあっいっいっいっいっ」と聞き覚えのある声が。
ネムリン「あっこのあいうえお笑いは」
木陰からイビキ(佐藤正宏)が登場。
イビキ「今年こそお前をやっつけ、全人類を寝不足にしてこの地球を寝不足惑星にしてやる」
ネムリン「待てイビキ。ネムリンがいる限り、寝不足惑星なんかにさせないぞ」
「かかってきなさーい」と言うネムリンだが、「その前に」とイビキはおもむろに頭を下げる。
イビキ「ネムリン、あけましておめでとうございます」
思わずよろけそうになったネムリンも「おめでとうございます」と返す。
イビキ「旧年中はいろいろお世話になりました」
ネムリン「いえいえこちらこそ」
イビキ「これはほんのつまらないものですが、グッチのタオル」
ネムリン「ご丁寧にありがとうございます」
「いやいやいやいや」と頭を下げ合うイビキとネムリン。そして唐突に死闘が始まる。
イビキ「もちを食べてエネルギーをつけた寝不足パワーを見せてやる、もちもちもちもちもちもちもちもち!!」
ネムリン「こっちだってお正月中ずっともちだったんだ、もちもちもちもちもちもちもち」
イビキ「新春スペシャル、イビキミサイル」
イビキは火を噴き、その炎がゴォーという文字に変わって飛んできた。ネムリンがよけると、文字は爆発。イビキは矢継ぎ早にゴォーを放ち、ネムリンはゴォーに追いかけられる。ネムリンはゴォーをつかんで振り回し、イビキに投げつけた。
広場で、イビキとネムリンは乱闘に! 壮絶な肉弾戦が繰りひろげられる。やがて疲れ切って、横たわるふたり。
ネムリン「イビキ、お前強くなったなあ…」
イビキ「ネムリン、お前だって。はあ…」
ネムリン「よし、決めた。きょうは一日お前と遊ぶ」
イビキ「え!?」
ネムリンは「このへんかな」とイビキのいまの住居へやって来た。イビキの自宅は土管の中にソファなどを置いたものだった。
ネムリン「お前も苦労してるんだなあ」
イビキ「やめろ、情けは無用。ネムリン、お前と正月の挨拶を交わしても、遊ぶつもりはなーい。さあ、戦え」
だがネムリンは「イビキ、なんか食わせろ」と要求。
イビキ「いい加減にしろ。何でおれがお前の食事の面倒まで見なきゃいけないんだ」
ネムリン「あ、そう。せっかく飯食った後、戦おうと思ったのにな。残念だな」
「あ、残念、残念」と節をつけて繰りかえすネムリンに、イビキは慌てて「判った判った。つくればいいんだろう、つくれば」。
アジトでうどんをつくったイビキは、ネムリンに箸で「あーん」と食べさせる。
イビキ「どうだ、うまいだろう?」
ネムリン「あ、そうだ。次はすきやきにしようぜ」
イビキは「ネムリンのバッキャロー、指さし確認、よし」と言いながら肉屋へおつかいに行く。
イビキ「すき焼き用の牛肉をください」
肉屋「霜降りのいい肉がありますよ」
イビキ「ああ、大きい声じゃ言えないけど、細切れを」
肉屋「え、細切れ!?」
イビキ「あ、あ!」
アジトですき焼きをつくったイビキは、またネムリンに食べさせてあげる。
イビキ「ネムリン、すき焼きを食べ終わったら、今度は本当に戦ってくれるだろうな? あーん」
エプロンをかけて、また買いに行くイビキ。
イビキ「お年玉もあとわずか」
八百屋でイビキは財布と相談して「キャベツ半分とネギ1本」。
土管のアジトでまたネムリンに食べさせるイビキ。
イビキ「いくらお前でも、これだけ食べればもう」
ネムリンは「ねむねむねむ」と寝始める。
イビキ「約束が違うじゃないか。おれと戦うはずじゃ」
イビキのお腹が鳴る。
イビキ「おれは一生懸命、何にも食べないで」
飾ってあるサタンのマスクに「父ちゃん!」と言うイビキは、やがて「あああ」とひっくり返る。
マコがこたつでうたた寝していると、イビキが出現。「マコ!」と呼ばれ、マコははっと起きる。
イビキ「ネムリンを何とかしろ。ネムリンのやつ、おれにごちそうつくらせるだけつくらせて、全部自分で食いやがって、寝てしまったんだ」
こたつの上のみかんを食べながら、泣き伏すイビキ。うざそうなマコ。
マコ「うるさいわね」
イビキ「マコ。こうなったのも、お前が日ごろネムリンの教育をしないからだ」
マコ「ネムリン、寝てるんでしょ」
イビキ「うん」
マコ「だったらその隙に、ネムリンやっつけたら?」
イビキ「なるほど! うん」
マコ「あんたいったい、何考えて生きてんの」
イビキが思わず「あっはは、いっひひ」と笑うと、
マコ「やめて! そのあいうえお笑い」
イビキ「かっかか、きっきき」
マコ「バカ!」
マコはこたつにもぐり込む。
アジトに戻ってきたイビキ。だがネムリンはいない。
イビキ「こうなれば、私が開発したネムリン逆お探知カーで」
奇怪な機械を押して、イビキはご町内を徘徊。機械に引っぱられたイビキがたどり着いたのは、後楽園ゆうえんち。
イビキが双眼鏡でさがしていると、ネムリンはメリーゴーランドに乗っていた。イビキはまたゴォーを出して「ネムリーン」と駆け寄るが、ネムリンに後ろからフォークで刺される。逃げたイビキが「やれやれ」とジェット機の乗り物にいると、ネムリンも乗っており、イビキに向かって「これでもくらえ」と続けざまにビームを発射。
イビキ「そこをなんとか」
ネムリン「やったったー」
今度はジェットコースターに飛び乗ったイビキ。後ろに潜んでいたネムリンが、フォークで「こちょこちょ」と攻撃。降りてふらふらのイビキが卒倒すると、男(岡田勝)が「お客さん」と声をかける。
アジトで寝ていたイビキを「起きろよ!」と工事の男が起こす。「うるせえなあ」とやはり寝ていたネムリンが先に起きる。
男「こいつはお前の仲間か?」
ネムリンは「ううん、とんでもない」と否定。
男「何、全人類を寝不足に? ふてえ野郎だ、全く」
イビキが「あああ」と起きる。
男「何があああだ。あしたから仕事が始まるんだぞ。出てってもらおうか」
男はイビキのスーツを放り投げる。
イビキ「ああ、私のぬけがらを」
男は「出てけ」とイビキを突き飛ばし、竹刀で攻撃。
イビキ「鬼ー」
ネムリンは「うるさいなあ、寝られやしない。帰るぞ」と行ってしまう。男はイビキを追い回す。
イビキ「てめえは鬼だー」
男「鬼じゃねえ」
夜空に光る星。見上げるマコとネムリン。
ネムリン「いまあの星がピカッと光った」
マコ「へえ」
ネムリン「あの星にはきっと宇宙人いるぞ」
マコ「え」
マコ「まさか」
ベッドに入ったマコは「やだな、あしたから学校か」とつぶやく。まだ夜空を見ているネムリン。
高層ビルが見える街路の屋台で、おでんを食べるイビキ。イビキは「すみませんね、いただいちゃって」と言い出し、屋台の主人(高杉哲平)は「お客さん、冗談を」と慌てる。イビキは「大きいほうでした。ちゃんとするべきところでしないと」とポリバケツにすわる。主人は「いい加減にしろ」とイビキの頭に水をぶっかける。
マコとネムリンが寝ていると、大岩家の前に唐草模様の風呂敷を背負ったイビキが。
イビキ「出て来いネムリーン。あんたね、あんたがほんとの鬼ですよ」
ネムリンが窓を開けると、庭でイビキが「鬼!」と叫んでいた。ネムリンは星に向かって角笛を吹き、宇宙人を召喚。
宇宙人「うるさくて寝られない。この野郎」
宇宙人は触手からビームを放ち、イビキは逃走。
ネムリンとマコが寝ていると、マコはネムリンをベッドから蹴落とす。
ネムリン「マコ!」
【感想】
だいたい1か月に1度の“イビキ・サーガ”。シリーズの序盤では暗躍していたイビキは、前回登場の第15話ではビビアンにやや振り回される役回りになっていて、遂に今回はネムリンなどに痛めつけられる被害者役。イビキとの戦いも第15話では既出のイメージの反復に陥っている感もあったけれども、今回は受難キャラに回ることで新味を醸している。
構成としては、序盤は当然主役であるネムリンの視点で描かれるわけだが、ネムリンとイビキの戦いが始まるといつの間にかイビキが進行役?を務め、ネムリンは仇役に逆転。この時期の浦沢義雄脚本は全体の構成を組み立てずに思いつきでつづっていくだけに、何の脈絡もなく事件が連打されたり、突然ゴリラなど異物が乱入したりという事例はあったが、中途で視点を変えてしまうというのはあまりないかもしれない。ある意味で無造作でいい加減な筆致を映像からは感じてしまうのだけれども、役者の面白さもあって何となく愉しく見てしまう。
坂本太郎監督はネムリンとイビキが比較的シリアスに戦う第12話も手がけていて、そちらは全編怪異な映像が頻出し見終えて酩酊するほどの凝りようで、セット(イビキのアジト)も不条理劇のような飾りつけだったが、今回はイビキのリアクションでほぼ全編引っぱっていくという相当異なったアプローチをとっている。シナリオによってタッチを使い分ける坂本演出の辣腕には、敬服するしかない。『ネムリン』後半では監督陣の多くが『TVオバケてれもんじゃ』(1985)に異動してしまい、坂本監督は過半数のエピソードに登板する大車輪の奮闘ぶりで後半を支えることになる。
イビキの発射するミサイルは、 ゴォーという文字が襲ってくる。先行する『ドラえもん』第34巻でも同じようなアイディアがあり、マンガならではだと思ったが、発泡スチロールを使って実写化するとは…。
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イビキ役の佐藤正宏氏はネムリンを相手に、寒いだろうにタイツ姿で熱演(登場シーンはほとんど屋外ロケ)。「もちもちもち」と変な身のこなしを見せたり、台詞の中途で急に渋いトーンで話したり、才気渙発な演技を披露している。渋い声は、第23話でも愉しめる。
大岩家の面々の出番は少ないが、マコの内田さゆり氏はうたた寝しているところを起こされてはっとするところが、さりげなくうまい。
イビキを追い出す工事現場の人は、大野剣友会の総帥・岡田勝氏。『仮面ライダー』(1971)のスーツアクターと殺陣師を兼任するなど多数の作品のアクションに携わっており、不思議コメディーシリーズでも毎回アクションアドバイザーを担当。『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)では準レギュラーの神主を演じていてコミカルな印象だったけれども、今回の強面ぶりは怖い。
屋台の主人役は、超ベテランの高杉哲平氏。『太陽にほえろ!』(1975〜1985)や『相棒』(2006)などに出演し、東映特撮では『仮面ライダー』や『秘密戦隊ゴレンジャー』(1977)にゲストで顔を出しているほか、不思議コメディーでは次作『勝手に!カミタマン』(1985)や『じゃあまん探偵団魔隣組』(1988)にも登場。
ロケ地の肉屋は『ペットントン』(1983)の第37話、八百屋は第38話でも使われている。
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