第25話「出た!ベートーベン」(1985年2月17日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)
【ストーリー】
挿入歌「ストップ・ザ・ネムリン」に合わせて靴を磨くネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。食卓ではママ(東啓子)がうるさい。
ママ「あなた、のんびり納豆なんてかき回してないで。こら玉三郎、ごはんなんか2、3回噛めばいいの。マコ、ここはレストランじゃないんだから、そんな気取ってないで。もう、みんな早く食べなさい」
パパ(福原一臣)、マコ(内田さゆり)、玉三郎(飛高政幸)は「はい」と高速で食べ始める。玉三郎がマコのおかずに箸をのばし、マコは「だめ!」。ママが「ネムリーン」と呼ぶと、ネムリンは「できたよ」と靴磨きを完了。
やがて出かけていくパパ、マコ、玉三郎。
玉三郎「まったくもう、いま何時だと思ってんの」
マコ「朝の7時」
玉三郎「まだ校門開いてないよ」
パパ「仕様がない」
テーブルで不思議そうなネムリン。
ネムリン「ママ、こんなに早くみんな追い出しちゃって」
これから近所の奥さんとうちでお茶を飲むのだという。
ママ「だからネムリンも、悪いけど午前中は外にいてね」
ネムリン「ええ?」
ママ「あ、ビビアンとモンローは?」
ネムリン「まだ寝てる」
ママ「あいつらー」
ママはネムリンの角笛を持って2階へ。ママが部屋で角笛を吹くと、ビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター:山崎清)とモンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)が大きくなり、ママは「働くのよ」とせきたてる。
公園へ飛んできたネムリン。
ネムリン「全く最近の主婦には困ったもんだ。よくパパがあれでがまんしてるよな。あ、もしかしたらパパには何か弱点があって、その弱点をママに握られてる。そうだ、それしかないな」
何の前触れもなく挿入歌「タイムスリップおじさん」が流れ、鳥かごを持ったタイムスリップおじさん(奥村公延)が踊りながらやって来る。頭を指さし、あきれ顔のネムリン。
ネムリン「何だ、その鳥かご?」
タイムスリップおじさん「いやいやいや、チルチルミチルに頼まれちゃって」
ネムリン「ちょ?」
タイムスリップおじさん「さがしてるんだ」
ネムリン「何を?」
タイムスリップおじさん「青い鳥」
驚くネムリン。
校門の前で、友だち(鈴木明子)に招待状を渡されるマコ。
友だち「あした私の誕生日なの」
マコ「わあ、行く行く」
友だち「アキマサくんとイノウエくんも呼んであるから」
マコ「やったー」
友だち「じゃあした来てくれるかな?」
マコ「いいとも」
だがマコは封筒を開くと「え…」。そこへ玉三郎が来る。
玉三郎「マコ、どうしたんだ」
マコ「何でもないわよ!」
帰宅したマコと玉三郎。
玉三郎「心配するなって。おれがレッスンしてあげるから」
マコ「お断りします」
テーブルに突っ伏して寝ていたネムリンが起きる。
ネムリン「マコ、お帰り」
マコ「ただいま」
ネムリン「ママは?」
マコ「隣んち。お昼はサンドイッチだって」
サンドイッチをぱくぱく食べる玉三郎。
玉三郎「ママのやつ、隣のおばさんとできてるんじゃないか」
マコ「変なこと言わないでよ!」
マコはバッグで玉三郎の顔を殴打。
ネムリン「マコ、だいぶ荒れてんな〜」
玉三郎「友だちの誕生日のパーティーに呼ばれて、歌、歌わなきゃなんなくなっちゃったんだって」
部屋にいるマコとネムリン。
マコ「ところがアキマサくんやイノウエくんも来るのよ」
ネムリン「そうか」
マコ「女の子だけだったら歌ってもいいけどさぁ」
ネムリン「なるほど、少女の微妙な心理ってわけだな」
マコ「ほんとに微妙よ」
テーブルについている玉三郎とタイムスリップおじさん。
玉三郎「青いマジック、貸してくれって」
タイムスリップおじさん「青い鳥、いくらさがしてもいないから、この雀を青く塗って」
マコは「やめなさいよ」と鳥かごを持って行き、雀を放してしまう。
公園で、マコが不機嫌なわけをタイムスリップおじさんに説明するネムリン。
ネムリン「というわけさ」
タイムスリップおじさん「なーんだ、そんなことか」
ネムリン「そんなことって、マコにとっては」
タイムスリップおじさんは「私に任せて。いないいないいないいないいない、いない」と消える。
ネムリン「タイムスリップおじさん、忘れ物だよー」
「あいよー」と声がして、鳥かごも消える。
ネムリン「まったくあの若づくりのおじいちゃんは、いったい何考えてんだ」
ネムリンが公園で待っていると、タイムスリップおじさんが男を連れて現れる。男は「ベートーベンです」と名乗り、第九「歓喜の歌」が流れる。
ネムリン「え?」
しかめつらしい顔をするベートーベン(市川勇)だが、セーラー服の女子高生を見かけると「あ〜」と大喜び。「お嬢さん、やろやろやろ」と寄っていく。
女子高生は驚く。
ベートーベン「ミュージカルしようじゃん」
タイムスリップおじさんは「先生、じゃんじゃないですよ」と止める。
ベートーベン「やろうよ〜」
タイムスリップおじさんは、ベートーベンがマコの歌のレッスンの先生にちょうどいいと思って連れてきたのだという。だがベートーベンは「おれ厭だよ。おれベートーベンだよ」と拒否。また別の女子高生を見つけると、笑顔になって寄っていく。飛びはねながら迫るベートーベンに、悲鳴を上げる女子高生。
ネムリン「あいつ、ほんとにベートーベンなの?」
居間でマコは電話する。
マコ「私、歌なんか。そこを何とかさ。ダメ? 判った。何とかやってみる。じゃあ、あした。バイバイ」
そこへネムリンとタイムスリップおじさん、ベートーベンが。ベートーベンは歌の先生を断固拒否。
ベートーベン「そんなもん、バッハかモーツァルトにやらせりゃいいだろ」
タイムスリップおじさんとネムリンは頼み込む。
マコ「だあれ?」
ネムリン「ベートーベン」
マコを見たベートーベンの表情が一変。「ああああああ」と叫ぶ。
タイムスリップおじさん「マコちゃんの歌の先生にと思って連れてきたんだけど」
ネムリン「でも本人がどうしても厭だってさ」
だがベートーベンは遮るように「やるやるやる」と言い出す。
ベートーベン「さあマコちゃん、しっかり歌のレッスンしましょうね」
顔を見合わせるネムリンとタイムスリップおじさん。
部屋でレッスンに励むマコとベートーベン。ネムリンが「どうだ、マコうまくなる見込みある?」と来ると、ベートーベンは「しっしっ」と追い払う仕草。
ベートーベン「ただいまレッスン中。関係者以外はあっち行ってなさい」
ネムリン「ちょっとぐらいいいじゃないか」
ベートーベンはまた「ああああ」と奇声を発する。
ベートーベン「おれはベートーベンだ。文句あっか」
ネムリンは「ありませーん」と逃げ出す。
ベートーベン「マコちゃん、歌しよ」
マコは「ピンクのモーツァルト」を歌い、ベートーベンは指揮棒を振る。
マコ「♪声あげてはしゃげない 大人の恋ね〜」
笑顔になるマコとベートーベン。
マコ「♪ピンクのベートーベン ねえもうじきね」
歌い終えてベートーベンは「よくできました。マコちゃん、もう大丈夫」と太鼓判を押す。
ベートーベン「感謝してる?」
マコ「はい」
ベートーベン「じゃあ感謝ついでに、お願いがあるの」
マコ「私にですか?」
照れるベートーベンは「こんなところじゃなんですから、もうちょっとロマンチックなところで」。
先ほどとは別の公園へマコを連れてきたベートーベン。
ベートーベン「お話って何ですか?」
マコ「実は…あれ…」
見ると女子高生がやきいもを買っていた。やきいもが食べたいのかと問うマコに、ベートーベンは「あれ、着てもらいたいの」。
マコ「セーラー服?」
ベートーベン「お願い。マコちゃんのセーラー服姿、ベートーベン見たいの」
マコ「私、困ります。まだ小学生なんだから」
ベートーベン「そんなことどうでもいいの。ベートーベンのお願い、マコちゃん、聞いて。ね?」
マコはベートーベンを平手打ち。「きょうはどうもありがとうございました」と一礼してマコは行ってしまう。飛んでくるネムリン。
ベートーベン「ロリコンのどこが悪いんだ!?」
ネムリン「いや。た、ただ」
興奮するベートーベン。
ベートーベン「ピンクのおばけが、ロリコンの美しさが判ってたまるか!」
そのとき、やきいものトラックから「♪よせばいいのに 一目惚れ〜」と歌がが流れてくる。
ベートーベン「何だこの新鮮な感覚は」
ネムリン「演歌」
ベートーベンは「何という素晴らしい調べなんだ」と感激。
ベートーベン「これこそベートーベンが求めてやまなかった芸術的音楽」
ネムリン「そうかなあ」
ベートーベン「そうだ、ベートーベンは旅に出よう。演歌を求めて旅に出よう」
「ありい?」とまた頭を指さすネムリン。
大岩家で話を聞いたマコ。
マコ「何だか心配ね。ね、タイムスリップおじさんに知らせたほうがいいんじゃない?」
ネムリンはダイヤルを回す。
公園で電話を受けたタイムスリップおじさん。
タイムスリップおじさん「ネムリン、そりゃまずいよ。これからベートーベンが作曲する名曲が演歌になっちゃったらどうするんだ。歴史が変わっちゃうじゃないか。そうなったらネムリンの責任だぞ」
タイムスリップおじさんは急ににやりと笑い「おれも昔は演歌を歌ったっけなあ。♪矢切の渡し〜」と歌い出す。
ベートーベンは工事のおじさん、魚屋のおばさん(山本緑)、トラックの運転手などに歌ってもらい、採集する。
ビル街の近くにある公園で、ベートーベンはネムリンに語る。
ベートーベン「安心してくれ。この通り、ベートーベンはすっかりマコちゃんにふられたショックから立ち直った。これというのも演歌のおかげ。全く浪花節だよ人生は。こうなったらものすごいド演歌をつくってやるぞ」
ネムリン「それが困るんだよ」
ネムリンとベートーベンは叩き合いに。ネムリンは角笛を吹き、演歌は次々と音符と化して飛んでいく。
ベートーベン「ああ、私の集めた演歌が!」
悄然となるベートーベン。
ネムリン「かわいそうだけどこれしかないんだ。ベートーベン、お前にはもっとものすごい音楽をつくってもらわなくちゃならないんだ」
だがベートーベンは「おれにはできない」と泣き崩れる。そこへ「ベートーベン先生」とマコの声が。見ると、木陰からセーラー服姿のマコが現れる。
ベートーベン「マコちゃん」
微笑んでポーズをとるマコを、ベートーベンは嬉しそうに見つめる。
マコ「ベートーベン先生、きっとできます」
ベートーベンは「おああああ」と唸る。ハトが飛び立ち、「運命」が鳴り響いた。
ベートーベン「ジャジャジャジャーン」
「やったやった」と拍手するネムリンとマコ。
ベートーベン「できた。わが生涯最高傑作、交響曲第五番。その名も「運命」!」
居間で「運命」のレコードを聴いているマコ、ネムリン、パパ、ママ、玉三郎、ビビアン、モンロー。
パパ「しかしこのベートーベンの名曲「運命」が、マコのおかげでできたとはな。なあ?」
ママ「それより、あのセーラー服なんかどこにあったの?」
マコは笑う。
マコ「お兄ちゃんのタンスの中!」
玉三郎は頭をかきむしってひっくり返り、ネムリンはみかんで玉三郎の頭をぽこぽこ叩く。
【感想】
イビキと同じく、概ね1か月周期で登場するタイムスリップおじさん編。前回の登場時(第21話)はゲストの桃太郎がメインでありつつタイムスリップおじさんや大岩夫妻、鬼と化した玉三郎と中山の出番もあったが、今回はベートーベンとマコに絞られてのドラマ。
マコの教師としてベートーベンが招聘されるも、ベートーベンは臆面もなく若い女子に迫るロリコン男だった。浦沢義雄脚本では、不思議コメディーシリーズの『ロボット8ちゃん』(1981)の第41話「カリント先生の希望の注射」に幼い女の子に迫る男性が次々と登場したほか、『バッテンロボ丸』(1982)の第44話「ナナコに捧げるバラード」では劇中で佐渡稔氏と市川勇氏が「ロリコンとは」と言って若い女の子に迫り、逃げられるとカメラに顔を寄せて「こういうことです」と視聴者に説明してくれるシーンまであった。つづく『ペットントン』(1983)にロリコン関係のねたはあまりなかったように記憶しているけれども、『ネムリン』ではまた登場。よりによってベートーベンの性癖として設定されるとは、楽聖に同情を禁じ得ない…。
ロリコンという語が膾炙したのは宮崎駿監督の映画『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)がきっかけらしいが、1983年の藤子・F・不二雄の短編「鉄人をひろったよ」(『パラレル同窓会』〈小学館文庫〉所収)の台詞にも登場しており、この時期の一種の流行語だったことが伺える。また「来てくれるかな」「いいとも!」はいかにも『笑っていいとも!』(1982〜2014)の全盛期らしく、同時期の映画『沙耶のいる透視図』(1984)や『愛欲の日々 エクスタシー』(1984)などにも脈絡なく「いいとも!」のフレーズが登場するのを連想した。
序盤ではママがホームパーティーを開きタイムスリップおじさんが青い鳥をさがして鳥かごを持ってくるも、いまひとつ転がらないと思ったのか、早々に放棄される。この場合は前半に修正を施すのが普通だが、そのまま残して思いつきで構成してしまうのが80年代の浦沢脚本の定番である(本話はベートーベンの設定や演技などの強烈さに目を眩まされてしまうのだけれども、よく考えると構成は著しく雑駁)。後年の『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)の第9話「フライドチキン男の青い鳥」ではチルチルミチルも登場し、青い鳥ねたが全面展開される。
後半でネムリンが角笛を吹くと、演歌が音符と化して逃げていく。最初は合成なのだけれども、やがて音符が物質化しており、やはり後年の『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)の第7話「ユーフラテスの恋」や『うたう!大龍宮城』(1992)の第32話「カワハギ」での音符が物質化して襲ってくるシーンを想起した。
ベートーベン役は『ロボット8ちゃん』に始まり『ペットントン』や『もりもりぼっくん』(1986)など不コメ常連で『超力戦隊オーレンジャー』(1995)の第17・18話でのシリアスな芝居も素晴らしかった市川勇氏。先述の『ロボ丸』第44話でもロリコンの設定で登場し、第41話「ハチャメチャ大音楽会」ではベートーベンのコスプレを披露。『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)の第2話「何を血迷うベートーベン」でもベートーベン役を演じた。一連のベートーベン絡みの演技の中で、今回の挙動不審なロリコンぶりは異彩を放っている。
中盤は光が丘公園、クライマックスは新宿中央公園(いまも現存するくじらの作り物が映っている)。ベートーベンの持っているラジカセは第13話でも使われている。
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