第21話「アッパレ!桃太郎」(1985年1月20日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)
【ストーリー】
書店で「ももたろう」の絵本を立ち読みしているネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。「こらっ」と声がして、ネムリンは「どきんちょ!」と驚く。振り向くとマコ(内田さゆり)が「立ち読みなんかしていると、本屋のおじさんに怒られるわよ」と笑っていた。ネムリンはマコに本を持たせて、店の中へ。
ネムリン「おじさん、この子です。かわいい顔してさっきからずうっと立ち読みしてんの」
ネムリンはおじさんを連れてきて、マコは「私じゃないんです!」と抵抗。ネムリンは逃げていく。
ネムリンは「やったね」と笑いながら帰宅。するとママ(東啓子)が「ネムリン、お客さん」。
大岩家の居間では、タイムスリップおじさん(奥村公延)がパパ(福原一臣)に「こうですよ」とゴルフを指南していた。ネムリンはこたつでケーキを食べながら、タイムスリップおじさんの話を聞く。
ネムリン「鬼ヶ島にタイムスリップしたら、桃太郎に鬼に間違えられたの」
タイムスリップおじさんは、桃太郎(石井喧一)に追いかけられて困っているのだという。
桃太郎は高層ビル街の前の公園で「ええい、鬼はどこじゃ!」と叫んでいた。見ている玉三郎(飛高政幸)と中山(岩国誠)。
玉三郎「何だあいつ、いい歳して。中山、あれお前んちの親戚か?」
首を振る中山。
タイムスリップおじさんはケーキをがつがつ食べて、皿をぺろぺろなめる。
ネムリン「判った、桃太郎に会ってみるよ」
タイムスリップおじさん「ありがとう、ネムリン」
タイムスリップおじさんは「食べないの?」とネムリンのケーキに手を伸ばす。「食べるよ!さわるな」とネムリンは一喝。
タイムスリップおじさん「けち」
広場で桃太郎は「鬼はどこじゃ」とわめいていた。飛んでくるネムリン。
ネムリン「タイムスリップおじさんは鬼じゃないよ。早く鬼ヶ島に帰れ」
桃太郎「さては見れば見るほど怪しいやつ。もしやして鬼の手先。そうじゃ、そうに違いない!」
ネムリン「やや」
桃太郎「桃太郎が成敗してくれる」
桃太郎はネムリンに斬りかかり、ネムリンは「斬れるよー」と逃げ回る。
公園でフリスビーをする女子を、にやにや笑って見ている中山。
中山「ねえ、遊びませんか」
女子はきゃーっと叫んで、行ってしまう。
中山「ああ…」
玉三郎「お前どうして女と話すときによだれたらすの」
桃太郎「桃から生まれた桃太郎。怪しき奴、成敗してくれる」
玉三郎は「へへー」と笑って近づくと、桃太郎の股間をつかむ。中山も蹴りを入れる。慌てるネムリン。
ネムリンは「帰れ帰れ」とふたりを追い払う。
玉三郎「助けてくれって言うから助けてやったのに」
ふたりは「ふん」と怒って去る。
ネムリン「ほんとにあいつら、やることが下品なんだから」
痛がる桃太郎のバックに、甲斐バンド「HERO(ヒーローになる時、それは今)」が流れる。
ネムリン「どっちもどっち」
菓子パンを食べるネムリンと桃太郎。
ネムリン「そういえばさ、家来どうしたの」
キジや犬、サルはきびだんごを食い逃げし、ブタ、ゾウ、マッコウクジラなどにも食べられたのだという。
桃太郎「ネムリンどの、拙者と鬼ヶ島にお供してくだされ」
居間で掃除機をかけるママと、掃除機を抱えるタイムスリップおじさん。
タイムスリップおじさん「綺麗なおうちですね。奥さんは綺麗好きなんですね」
ママ「あら、そんな」
タイムスリップおじさん「ぼくも奥さんみたいなお嫁さんがほしいなあ」
ママ「やだ〜」
そこへ桃太郎とネムリンが現れ、桃太郎はせき払い。
タムスリップおじさんは、桃太郎とネムリンを鬼ヶ島へ連れてくる。桃太郎は「鬼はどこじゃ!」と叫んで走って行く。
タイムスリップおじさん「じゃ私はここで」
ネムリン「え、あれ。いっしょに鬼退治くれるんじゃないの」
タイムスリップおじさんは、用事があると消えてしまう。
桃太郎は玉三郎そっくりの赤鬼(飛高政幸)と中山そっくりの青鬼(岩国誠)に股間をつかまれ、やられていた。
ネムリンは鬼に頭突きしキックし引っかくも、全く効かない。
ネムリンは角笛を吹き、棍棒が動き出して鬼を攻撃し始めた。逃げ出す鬼。
だが隠れていた鬼は、桃太郎を後ろから殴り倒しさらっていく。
ネムリン「ちぇっ、逃げ足の速いやつらだ。え、あれ。桃太郎、どこだ」
桃太郎は岩場に縛りつけられていた。赤鬼は「あの笛にはまいったなあ」と言いながら自分の角を折って吹いてみるが、音は出ない。
赤鬼「肩が凝ったな。青鬼、揉め」
青鬼「はい」
赤鬼「あの角笛、必ずおれさまのものにしてみせる」
ネムリンが「世話の焼けるやつだ」と桃太郎をさがしていると、海から拡声器が浮かび上がる。
赤鬼の声「ネムリンに告ぐ。桃太郎を返してもらいたかったら、お前の持っている角笛と交換しろ」
岩場のアジトでは桃太郎が縛りつけられていた。
桃太郎「ネムリンどの、お助けくだされ」
鬼は大笑い。
大岩家の居間では、現代に戻ったタイムスリップおじさんがママをディスコに誘っていた。
タイムスリップおじさん「旦那さまには、PTAの会議があるって言っとけばいいじゃないですか」
新聞を持ったパパが後ろから来る。
タイムスリップおじさん「ぼく、とてもいいディスコ知ってるんです」
ママ「でもあたし長いこと行ってないから、踊り忘れちゃったし」
タイムスリップおじさん「奥さま!」
ふたりがいっしょに踊り始めると、パパは新聞でタイムスリップおじさんをはたく。
パパ「鉄兜なんかかぶりやがって。何がディスコだ、この」
ママ「あなた」
タイムスリップおじさん「奥さま〜」
「ただいま」と帰宅するマコ。ママは「誘惑するの」と逃げ、パパは新聞でおじさんを叩きまくる。
マコ「ただいま帰りました!!」
「おかえり」とみなは平静を装う。
ネムリンが鬼のアジトへ乗り込んでくると、赤鬼の声が。
赤鬼の声「角笛をおむすび山の切り株の上に置け」
ネムリン「ちょー」
山頂にて、ネムリンと鬼は対峙。両者は同時に、角笛と桃太郎を引き渡す。赤鬼は「これさえこっちにあれば」と角笛を吹き、周囲が爆発。「あぶない!」と、ネムリンと桃太郎は逃げ惑う。赤鬼と青鬼はお腹を叩いて爆笑。
赤鬼「もういっちょ」
赤鬼がまた角笛を吹くと、今度は茂みから蔦が襲ってきた。からまれ動けない桃太郎とネムリン。
居間では、ケーキを食べているマコにタイムスリップおじさんがアプローチ。庭で見ているパパ。
タイムスリップおじさん「ねえ、マコちゃん。熱海行こう。おじさんといっしょに熱海行こう。スカート買ってあげるから」
パパは「この野郎! 何が熱海だ」と取り込んだ洗濯物で攻撃。ママが「ただいま」と帰宅。
タイムスリップおじさん「話せば判ります」
パパ「何が話せば判るだこの野郎。ディスコやら熱海やら」
ママ「ただいま!!」
タイムスリップおじさんは踊ってごまかす。
海岸で「アッパレアッパレ」などと言う桃太郎に、ネムリンは「うるせえ」とキック。
桃太郎「ネムリン殿、痛いでござる」
ネムリン「声出さないで痛がれ」
桃太郎「はい」
パントマイムで痛がる桃太郎。するとまたあの拡声器が海から出てきて、赤鬼の声が。
赤鬼の声「早く鬼ヶ島から出て行け。さもないと貴様の命はないものと思え」
ネムリンは「こんにゃろー」と拡声器を海へ蹴飛ばした。
桃太郎「全くもって不届きなやつだ。角の折れた鬼なんて、百恵のいない友和みたいなもの」
ネムリン「え、いま何てった」
ネムリンは「それだ」とひらめく。
ネムリン「よし、桃太郎。攻撃開始」
隠れ家では青鬼が酒を「お飲みになって」と注ぎ、赤鬼は「おっとっとっとっと」と飲む。現れるネムリンと桃太郎。
赤鬼「表へ出ろ」
洞穴の前で桃太郎は鬼をにらみつけるが、赤鬼が「ガオー」と威嚇すると「ネムリンたら、助けてー」。
赤鬼が頭につけていた角笛を取って吹こうとすると、ネムリンと桃太郎が笑い出す。
ネムリン「赤鬼。お前、角ないのか」
一瞬沈黙する鬼。
赤鬼「そんなにおかしいか」
青鬼「ええ、まあ…」
赤鬼、それじゃかっこつかないじゃん。これでもつけとけ」
ネムリンが赤いものを放ると、赤鬼の頭に乗っかる。
赤鬼「本当か」
青鬼「まあ、ないよりは」
赤鬼が角笛を吹くと、ネムリンは「桃太郎、いまだ」。桃太郎が扇子であおぎ、角笛の光線は跳ね返って赤鬼の頭に命中。角の部位から蔦が生える。蔦に縛りつけられた赤鬼と青鬼は「逃げろー」。赤鬼は角笛を離してしまう。ダウン状態の鬼たちをネムリンはパンチで攻撃。「HERO」が流れる。
大岩家では、ネムリン、マコ、パパ、ママ、玉三郎、タイムスリップおじさんが集合して桃太郎がくれたお土産を注視。
玉三郎「きっと鬼から取った宝物じゃないの」
マコ「開けてみよう、ネムリン」
開けると中から煙とともに紙が飛び散る。
ネムリン「桃太郎のサイン入りブロマイドじゃないの!?」
みなはブロマイドを破り捨てる。
【感想】
第17話以来となるタイムスリップおじさん登場編は、またレギュラーが他の役で登場するパラレルワールド編。あくの強い話がつづいていただけに、ひと休みという感のあるエピソードである。前作『ペットントン』(1983)はパラレル編が『ネムリン』以上に多く、玉三郎役の飛高政幸氏が乙姫役の話などもあったので、桃太郎に材を取ったのは待ってましたという気になる。ただ角笛をとられるのは第11話の反復であり、パラレルねたも何度目かなので、あまり新味はない。
今回登場する桃太郎はお供に逃げられ、大事な局面ではあまり使えない、ネムリンに頼ってばかりの木偶の坊という解釈。筆者が想起したのは「三国志」で、関羽や諸葛孔明、張飛などが各々の特技を有しているのに対して、リーダー格の劉備玄徳はカリスマ性くらいで芸も何もない。しかしそんな人物でも、側近が優秀ならばヒーローに祭り上げられるケースもある。脚本の浦沢義雄先生はおそらくただ面白さだけを狙って桃太郎を役立たずに造型したのだろうが、図らずもヒーロー像についての批評になっている面もある。
タイムスリップおじさんは、初登場の第14話では意味もなく英単語を話していたけれども、いつのまにかその設定はなくなったらしい。そして2度目の第17話で「発情」して以来スケベだという属性が加わったようで、本筋とは関係なくママやマコにモーションをかけ(ママはまんざらでもなく、マコはガン無視)、そのシーンがいちばんの笑いどころであった。
タイムスリップおじさんを演じる奥村公延氏は、『ペットントン』では落ち着いた獣医役ではじけるシーンも少なかったゆえ、「ぼくとディスコへ」とか恥ずかしげもなく迫るあたりはギャップがすごい(奥村氏は他の作品でも温和な役柄が多く、こういうエロ親父役は希少であろう)。福原一臣氏や東啓子氏とも『ペットントン』にて共演していただけに相性も抜群で、もう笑わずにはいられない。
マコの内田さゆり氏も出番は少ないながら、大人たちが騒いでいるときに「ただいま帰りました」と叫ぶあたり、面白い(長回しで芝居を止めないのもいい)。内田氏は、きつい女子をドライに演じているが、今回やスケバン化するシーンのある第13話、黒こげにされる第27話でコメディエンヌとしての資質が伺える。
中山は、先週はモンローとラブラブだったのに、今回は公園にいる女子に欲情。演じる岩国誠氏の、青鬼になってからの「まあ…」という台詞回しが普段と同じで面白い。「お飲みになって」とおねえ口調で言うあたり爆笑。玉三郎の飛高氏も、赤鬼になってから緊縛状態の桃太郎をいたぶる仕草はおそらくアドリブだろう。
桃太郎役の石井喧一氏は『バッテンロボ丸』(1982)のカンチャン星人役やトリツキマン役のゲスト出演、『ペットントン』(1983)の市長役につづく登場。次作『勝手に!カミタマン』(1985)ではレギュラーの父親役を演じている。
冒頭の書店は『ペットントン』第42話などでも使われている、武蔵関駅付近の本屋さん。桃太郎が跳ね回るのは、やはり『ペットントン』でも使われた新宿中央公園。後半に鬼と戦う件りには、『電撃戦隊チェンジマン』(1985)のタイトルバックなど、80年代の東映作品によく出てくる崖が見られる。
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