第30話「アイドル故郷へ帰る?!」(1985年3月24日放送 脚本:寺田憲史 監督:坂本太郎)
【ストーリー】
「とらばーゆ」を読むネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。食卓を囲むパパ(福原一臣)、ママ(東啓子)、マコ(内田さゆり)、玉三郎(飛高政幸)。
パパ「社会を甘く見るんじゃない」
マコ「ほーら、ごらんなさい」
ママ「そうよネムリン、社会に出てお仕事してくってことは大変なことなのよ」
パパ「そうそう」
ママ「お仕事の競争に負けたらみじめよーパパをごらんなさい」
「あちゃ」とずっこけるパパ。
玉三郎「いったいどうして働く気になんかなったんだよ、ネムリン?」
ネムリン「そ、それは決まってるじゃんか」
マコ「何よ?」
ネムリン「それはだな…そうだ、キャリアウーマンになりたいんだ!」
みな大笑い。
ネムリン「ちょ、ちょ、ちょ、ちょーバカにしたな。くっそー見とれ」
ネムリンは「ネムリンにおまかせ」と意気軒昂。不安そうなビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター:山崎清)とモンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)。タイプライターを叩くも、羽が巻き込まれてしまい、不採用と書かれたゴミ箱に放り込まれる。
次に喫茶店で働くが「おいしそう、たまんない、食べちゃお」とパフェをぺろぺろ。子どもは泣き出し、ネムリンは外へ放り出される。
今度はお寺ではちまきをして、パンツの叩き売りに挑戦。
ネムリン「このパンツのゴムはね、大根ぶら下げても切れないんだ。パンツを買って大根を吊ろう」
ビビアンとモンローがサクラを務める。
ネムリン「そこのお兄ちゃん、やってみてちょうだい」
ビビアン「ほんとかしら、どれどれ。あら強いわね」
モンロー「よーし、おれ全部買う」
そのさまを見ているマコと玉三郎、中山(岩国誠)。
中山「ほら、ぼくの言った通りでしょう」
マコはネムリンを引っぱっていく。
ネムリン「まだ商売の途中なんだぞ!」
マコ「これがあんたの言うキャリアウーマンなの!?」
ネムリン「うるさい、世間に出りゃいろんなことがあるんだい。子どもに判るかい」
マコ「何よ、ただ意地を張ってるだけじゃない? ほんとはうちに帰ってきたいんでしょう?」
「うるせえ」「強情っぱり」「ませがき」とふたりは喧嘩に。マコはネムリンを叩く。ふたりはつかみ合いに。「ネムリンやめろ」と、玉三郎と中山が駆け寄る。引っかくマコとパンチするネムリン。
その夜、ボコボコにされた中山と玉三郎が大岩家で食事していた。
中山「しかしどうして止めに入ったぼくたちだけが、こう無残なんでしょうね」
玉三郎「知るか、そんなこと」
笑うママ。「あいて」と言いながら食べるふたり。ネムリンは不在。
ママ「せっかく用意したのにね」
マコは「頭きちゃうわ、ネムリンのやつ」と言いながら食べる。パパは「迎えに行ってやるか」と立ち上がる。
マコ「いいのよ、あんなやつ。最初からいないって思えば、どうってことないじゃない?」
何かを振り払うように、ぱくぱく食べるマコ。無言のパパ、ママ、玉三郎、中山。
線路脇の屋台のラーメン屋にいるネムリン、ビビアン、モンロー。ビビアンが「できたわよ、ネムリン」とラーメンを運んでくると、ネムリンは寝ていた。
ネムリン「もっと向こうで寝ろよ、マコ」
寝言をつぶやくネムリンに、顔を見合わせるビビアンとモンロー。
そこへ唐突に「おこんばんは」と、タイムスリップおじさん(奥村公延)が出現。
タイムスリップおじさん「ネムリン、おねんね?」
ビビアン「いま疲れてんのよ。後にしてよ」
タイムスリップおじさんは、ネムリンに頼まれたタイムマシンができたのだという。
タイムスリップおじさん「あんたたち、8億年前に帰るんでしょう?」
ビビアン・モンロー「ええっ!?」
タイムスリップおじさん「ええってネムリンから何も聞いてないの?」
ビビアン「ちょっとそれ、どういうこと?」
この間、タイムスリップおじさんは間違えて8億年前にタイムスリップしてしまった。時間の渦の中に巻き込まれるタイムスリップおじさん。行った先で、ネムリンの父にいますぐ帰るよう伝えてくれと頼まれたという。
タイムスリップおじさん「もし帰らないときには、ネムリン族から破門するって」
モンロー「ええっ」
タイムスリップおじさん「ああ、そうそうそうそう。出発は、あしたの夜12時。時間厳守」
寝ているネムリン。
自室でひとり寝ているマコは、「ネムリン、向こう行ってよ。重いってば」と目ざめる。だが、ベッドには他に誰もいない。まくらを見つめるマコ。
きょうもパンツの叩き売りをするネムリンたち。
ネムリン「ほらビビアン、モンロー。何やってんだよ。ばんばん稼がにゃ、大したプレゼントもできないんだぞ」
ネムリンに発破をかけられ、ビビアンとモンローも働く。
マコは学校から赤電話で家にかける。
マコ「そう、まだ帰ってきてないの?」
居間で電話を受けるママ。
ママ「いないと、あれで結構淋しいもんね。マコ、マコ?」
マコは学校で電話を切り、階段を上がる。
マコの心の声「いったいどこ行っちゃったんだろ。変な意地張ってないで、早く帰ってくればいいのに」
居間でママはため息。
ママ「何だか子どもがひとりいなくなったような気分」
物音がしたのでママがふと見ると、庭でビビアンとモンローが「しー」と言いながら抜き足差し足で歩いていた。
店でネムリンは帽子やネクタイを眺めていた。
ネムリン「目移りしちゃうんだよねー」
マイクを見るネムリン。
ネムリン「うわあ、いっぱいあるんだ」
夕陽の差し込む居間で、ママから話を聞いたマコと玉三郎。
マコ「ええ、そんな?」
玉三郎「嘘みてえ」
ママ「嘘じゃない。ネムリンだって私たちに言わなかったのは、自分がつらかったからなのよ」
泣き出すマコ。
ママ「マコ、黙って送り出してあげましょ。そのほうがネムリンのためかもしれないわ」
マコは「厭よ」とママに抱きつく。「ねえちょっとちょっと本当なのか、ママ。ネムリンが帰っちゃうって」と言いながら帰宅したパパは、抱き合うママとマコを見る。
パパ「そうか…」
夜になって、荷物を持ったネムリンが久々に大岩家に戻ってきた。ベッドで寝ているパパとママ。ネムリンはパパとママの寝顔を見つめて、枕元にプレゼントを置く。
ネムリン「パパ、ママ。お世話になりました」
パパとママはそっと目を開け、顔を見合わせる。
自室で寝ている玉三郎。飛んできたネムリンは「風邪ひくっちょ」と布団をかけてやり、プレゼントを置く。
ネムリン「玉、楽しかったよ」
そしてネムリンはマコの部屋へ。マコの寝顔。
ネムリン「マコ…いろいろとありがとう」
角笛を置いて、涙を流すネムリン。ネムリンが飛んでいった後、マコも泣く。
大岩家の前で「みんな、さようなら」と振り返ってから飛ぶネムリン。
マコは部屋で、ネムリンがベッドサイドに置いていった角笛を見る。
マコ「ネムリン」
部屋にパパ、ママ、玉三郎が入ってくる。
パパ「マコ」
マコ「パパ、ママ」
3人はネムリンが置いていったプレゼントを見せる。パパにはネクタイ、ママには帽子(カチューシャ?)、そして玉三郎にはマイク。
マコ「ネムリン、プレゼントを買うために働いてたのに、私ったら。こんなの厭」
マコは走り出る。
タイムマシンの前でビビアンとモンローが、「遅いわね」とやきもきしていた。やっと来るネムリン。
夜の道を走って行くマコ。ネムリンとの記憶が甦る。花畑で、ベッドで、庭で、鮮やかな想い出たち。
モンローは「先行く」と光の中に消える。
ビビアン「行くわよ、ネムリン」
ネムリン「わーってるよ」
ビビアンも行ってしまう。振り返るネムリン。そこへ「ネムリーン」と声が。マコが来たのだった。
ネムリン「だめだ、来ちゃダメ」
マコ「ネムリン、行っちゃ厭」
ネムリン「そんなこと言ったって」
ネムリンも光の中へ。
マコ「あっ、ネムリン」
マコも追っていく。「マコー」とパパ、ママ、玉三郎も走ってきた。
時間の渦の中にいるマコとネムリン。
ネムリン「来ちゃダメっちょ。パパやママのところへ戻れなくなるっちょ」
「早くネムリーン」と言いながらビビアンとモンローが、渦の奥へ。
ビビアン「父上さまが待ってるわー」
見つめ合うマコとネムリン。
ビビアン「早くー」
ネムリン「うーうるさい。父上に言ってくれ、もう少しマコと遊んでから行くって」
マコ「ネムリン、ごめんなさい」
ネムリンは、マコの持ってきた角笛を吹く。ネムリンとマコは、回転。
地上に激しい閃光と衝撃が走り、パパとママ、玉三郎は顔を覆う。白い光の球体が砕け散り、マコとネムリンが現れた。パパたちは駆け寄り、ネムリンとマコを抱きしめた。
ベッドで苦しむネムリン。
ネムリン「たべすぎてもうた」
マコ「うーうるさいな、さっきからずっと」
ネムリン「苦しくて眠れないんだよー」
ネムリンのお腹は膨らんでいた。
マコ「久しぶりのママのお料理だからって、バカみたいにばくばく食べるからよ」
ネムリン「え、何だとー」
マコ「まったく食い意地張ってんだから」
「こんなことなら帰っちまえばよかった」と怒るネムリン。
マコ「あーら、いまからでも遅くないんじゃなーい?」
マコはネムリンのお腹を指で攻撃。相変わらず、仲良く喧嘩するふたりだった。
【感想】
『ネムリン』の実質的な最終話。第28話につづいて寺田憲史先生が脚本を担当しており、起承転結の構成がしっかりしている。第27話までの浦沢義雄脚本で掉尾を飾ってほしかったという思いもあるが、今回もプロの手堅い仕事で十二分に愉しめる。
不思議コメディーシリーズ前作『ペットントン』(1983)の最終話は浦沢脚本だったけれども、スタッフ・キャストのアイディアがかなり投入されたとおぼしく、見事なフィナーレではあったものの浦沢先生らしさはさほどなかった。
寺田先生は『ネムリン』の終盤にようやく参加したにもかかわらず最終話を執筆しなければならなかったわけでやりにくかっただろうが、レギュラー陣が顔を揃え、ネムリンとマコの友情を再確認するというツボを押さえた構成・作劇が光っている。
今回は、寺田脚本の第28話のような変なゲストキャラが登場するわけでもないゆえ、『ネムリン』の中で最も普通のドラマに近づいた感がある。こんだけ奇怪なアイディアと構成に彩られたシリーズが、普通っぽくウェルメイドに幕を閉じるというのも案外ユニークなのではあるまいか(余談だが不コメ最終作の『有言実行三姉妹シュシュトリアン』〈1993〉の最終話「シュシュトリアン最後の闘い!」は浦沢脚本で、地球の未来を賭けた戦いが突如中断してシュシュトリアンへの花束贈呈が行われるという趣向があり爆笑した)。
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今回の前半でネムリンは、事務や喫茶店のバイトに挑戦。第2話などではビビアンに働かせようとしていたけれども、今回は情の移った大岩家の人たちのためということで、自らお金を稼ごうとしたのだろうか。前作『ペットントン』は第9話など初期にペットントンがスポーツなどさまざまな趣味にチャレンジするというエピソードがあったが、『ネムリン』では新鮮に映る。
大岩家の食卓から線路沿いの屋台にシーンが切り替わる件りでは、電車の音が先行している。山田太一脚本『早春スケッチブック』(1983)などこの時代の作品に多く見られるテクニックで、脚本の領域か演出かは不分明だけれども、やはり普通のドラマっぽい。
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ネムリンのお父さんは、ネムリンに眉毛とヒゲをつけただけ。円谷プロの『ウルトラマン』(1966)の最終話や『ウルトラセブン』(1967)の第48話にて同様の?演出があった。不コメでは、『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)のご先祖さま役をヒロイン役の堀川早苗氏が一人二役で演じている。
タイムスリップおじさんのシーンでは、奥村公延氏の息が白い。タイムスリップおじさんも人間なのだと思わせる。
クライマックスの盛り上がりは、坂本太郎監督のしたたかな技量を感じさせる。何度か書いたが、『ネムリン』後半は坂本監督が大半のエピソードに登板し、大車輪の奮闘ぶりだった。坂本作品では第11話や第20話のクライマックスがすごかったが、今回の別れのシーンの盛り上がりも、キャストの熱演はもちろん坂本演出あってこそだろう。
いつも寝てばかりいるネムリンが眠れないというのは、おそらく今回が初めて。マコとの言い合いの場面でさらっと終わるというのも、いい。
スタッフ・キャストのみなさま、本当にお疲れさまでした。ありがとうネムリン、愛の妖精…。