第28話「決定!? 街の大スター」(1985年3月10日放送 脚本:寺田憲史 監督:大井利夫)
【ストーリー】
住宅街を歩くマコ(内田さゆり)とネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。
ネムリン「さっきからどうしたんよ、マコ?」
マコ「気づかない、ネムリン? さっきからずうっとつけてきてる感じ」
見ると男(チャップ)がとぼけた様子で顔を背ける。
マコ「ねえ、変態っぽいって思わない?」
ネムリン「まずそれ当たりだね、マコ」
男はポスターを貼るふり。「試してみるっちょ」と走り出すネムリンとマコ。男も追いかける。
マコ「だるまさんころんだ!」
ネムリン「ころんだ!」
マコとネムリンが突然止まって振り返ると、男も止まる。ネムリンとマコは男をつかまえて、口に野菜を突っ込む。
ランドセルを背負って、とぼとぼ歩いてくる玉三郎。玉三郎は堀越学園を思い浮かべていた。
玉三郎「あ!」
ネムリンが「堀越」と書かれた印籠を突きつける。
マコ「ネムリン、いい加減にしなさいよ」
玉三郎は「お助けくだせえ」と土下座。そこへ紙飛行機が。「君こそスターだ」と書かれたオーディションのお知らせだった。
素人を主役にドラマをつくるスカウトキャラバンがご町内に来たと知って、嬉しげな玉三郎。
玉三郎「やっぱりおれは、堀越に行かなくても芸能界に行くようになってんだね」
ママ(東啓子)はチラシを読み上げる。
ママ「あなたは自分の才能に気づいていないのだ、誰だってスターになれる…」
ふと見るとパパ(福原一臣)もチラシをのぞき込んでいた。「まったくみんなどうかしてるぞ」とパパは笑ってごまかす。
パパは木枯し紋次郎の扮装を。
パパ「ここは親と子でも譲れんぞ、玉三郎。どこでスカウトが見てるかわかんないからな。さらばじゃ玉三郎」
玉三郎「子どもの将来考えろよ」
玉三郎「何を言う。ここで一発当たれば、バイビーサラリーマン、こんにちは芸能人、だもんね」
パパにつかみかかる玉三郎。
ママはヤンキーになっていた。ネムリンも濃いメイクを。
ママ「この口紅高いんだから、使っちゃダメだって言ったでしょ」
ネムリン「けち、あっちがスターになったらこんなもんいくらでも買うたるわい」
ママ「あんたなんかにスターの声がかかるわけないでしょ」
ネムリン「大年増が」
公園にいるマコとネムリン。
マコ「でもほんとにマジでスターになりたいん、ネムリン?」
ネムリン「もち、大マジに決まってるじゃん。スターほど楽なもんないよ」
マコ「スターほど?」
ネムリン「そう、スターになって…」
ネムリンの妄想が始まった。ステージ上で恍惚の表情を浮かべるネムリン。
ネムリン「みなさん、ありがとう。私は幸せでした。これから私は普通のネムリンに戻ります」
ネムリン「なんちゃってさ、引退して2、3年遊んだらカムバック芸能界なんていいだろう、う?」
マコ「そーんな甘いもんじゃないでしょ」
男の声「いや、それを現実のものとするのです!」
さっきの怪しい男が、カチンコを叩きながら現れた。男はオーディションのチラシを見せる。
マコ「何よ、そしたらあなたがスカウトなの?」
ネムリン「どきんちょ」
男「はい、ぼくは助監督さんなんねー」
助監督は呼ばれて「監督」と行く。
見るとカーテンが。
助監督「ナハハハハハハハ。監督、非常に型気にする人なんで、初対面どき、必ずこれやるんよ」
ネムリン「香水シュパ、シュパシュパシュパ」
助監督がカーテンを引くと、ベレー帽をかぶった監督(興松剛)が姿を現す。
ネムリン「もろ芸術家タイプ」
助監督は「今度のドラマでわれわれの欲しがっていたのは、きみだ!」とネムリンを素通りしてマコを指す。ネムリンは「あっちは?」と詰め寄るも、助監督にはねのけられる。
助監督「いまこそ監督のイメージに火がついたのですー」
マコ「ちょ、ちょっと待ってよ」
ネムリンは「あの子よりあっちのほうがかわいいぞ」と飛んでいくが、カチンコで首を挟まれる。監督はマコを手招き。厭がるマコ。
ネムリン「こら、ずるいぞお前。興味ないんだろう、興味?ここはこのネムリンに譲って、ほら」
マコ「気持ち悪い、やっぱやめた」
逃げ出すマコ。弾みでネムリンは監督にディープキス。
ネムリン「おえー責任取れよな。赤ちゃんできたら、どうすんだよ」
助監督はまたネムリンをカチンコで挟む。
助監督「あの子の名前、何ていう?」
ネムリン「知るかそんなもん」
助監督は、ネムリンの顔を監督のくちびるに近づける。
マコはひとり橋にいた。
マコのナレーション「スターか。ちょっともったいなかったかな」
マコはダンスする自分をしばらく想像する。
川沿いをちんどん屋が来た。見ると、それは白塗りの玉三郎で「練馬が生んだ天才スター」との看板を掲げている。
玉三郎「ドラマ出演の申し込みは大岩家まで」
だがチラシをもらった子どもたちは「何だこれ」と放り投げる。
マコ「かといって、あそこまではできないもんね」
棚で「ねむねむねむ」と寝ているネムリン。横でママが「ほんとですか!?」と電話を受けている。玄関から「ただいま」とパパの声。「よろしくお願いします」と電話を切ったママは「やったー」と大喜びしてパパに抱きつく。ネムリンも起きる。マコも帰宅。
パパ「少し落ち着きなさい」
ママ「これが落ち着いてられるかっていうのよ。いまね、例のドラマのスカウトさんから電話があって、うちの玉三郎が主役に抜擢されたっていうの」
パパ・マコ・ネムリン「なあんだ…うん? ええっ!?」
パパはお姫さまだっこをしていたママを床へ落っことす。
ちんどん屋姿の玉三郎も「ただいま」と庭から入ってくる。パパとママは「すごいぞ、お前。よくやったな」と大喜び。
マコ「そんな…だって、たしか」
ネムリンは「やっべー」と目をそらす。
マコ「ネムリン、あんた何かやったでしょう!?」
ネムリン「し、知らないよ。あっち行けよ。知らないってば、離せよ」
マコ「知らないじゃ済まない感じじゃない?」
ネムリン「あっちはただ、あんたの名前を訊かれたからさ、ほんだから」
マコ「それでどうしてお兄ちゃんの名前を言うわけ?」
ネムリン「ねむねむねむねむねむ」
マコ「ネムリン、眠るなー!」
パパ「それではただいまより、監督を迎えるために、大岩家一丸となって偉大なるスター・玉三郎くんの家を演出しようではないかー」
ママは拍手。
パパとママは部屋の飾りつけに勤しみ、ビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター:山崎清)、モンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)も手伝う。マコは玉三郎を庭へ連れ出す。
マコ「監督さん、台本の打ち合わせに来るんでしょ?」
玉三郎「ああ、だからこうやって」
マコは玉三郎を洗濯物の陰に連れて行く。
マコ「そういうのは、お兄ちゃん立ち会わないほうがスターっぽいよ」
玉三郎「え?」
ネムリン「そうだぞ、タマ。台本の打ち合わせなんかパパとママに任せて、あんまりチャラチャラ顔出さないほうが、正解」
玉三郎「そうかなあ」
それよりファンを大切にしたほうがと言われて、玉三郎も納得。
大岩家の前には“歓迎!大監督様”と掲げられる。パパとママ、ビビアン、モンローが待っていると“君がスターだ!おもしろドラマ”と貼られたワゴンが来る。
助監督「この度はどうも。大監督の登場です。謹んでお出迎えください」
また助監督がカーテンを引くと、監督が姿を現す。助監督が先に行こうとすると、監督はホンで頭をはたき、助監督は「どうぞ先生、どうぞ」。
ベランダで見ているマコとネムリン。
ネムリン「あーあーあーあー」
居間にいる監督、助監督、パパ、ママ。
助監督「早速、今回のドラマの狙いからお話しますからね」
ネムリンは階段の上から角笛を吹く。ママのお茶は浮かび上がり、監督の顔へ。監督は助監督の顔にブーッとお茶を吹き出す。
助監督「結構なお味だとおっしゃっとります」
隠れているネムリンとマコ。
ネムリン「ちょー全然驚かない」
マコ「手ぬるいのよ。もっとがんがんいてまえ」
ネムリンはふたたび角笛を吹く。今度は監督がディレクターズチェアごと浮かび上がる。
パパ「くそー何だってこんな大事なときに邪魔するんだ」
ママ「自分が選ばれなかったから玉三郎の才能にいじけてるの」
花も浮かぶ。
パパ「ネムリン!」
喜ぶ監督。
助監督「なかなかイメージをかき立てるうちだ。気に入った、とおっしゃっとります」
唖然とするパパとママ。
ネムリン・マコ「きょん!」
玉三郎は公園で“偉大なる大岩玉三郎サイン会”を催すが、子どもたちは興味なさげ。
玉三郎「おい、中山じゃないのか」
中山(岩国誠)の後ろ姿。「中山!」と玉三郎が顔をのぞき込むと、中山はリボンをつけ、口紅も…。そして頬には不採用の文字があった。
中山「玉三郎さん。私、女に生まれてくればよかった。やっぱり男じゃダメなのよ」
中山は玉三郎に抱きつく。
玉三郎「気持ちわりいなあ。女に生まれてくればよかったって、お前まさか」
中山「白状しちゃうわ。私だって、私だってできることならスポットライト浴びてみたかった。でもこれ、女じゃないとだめだってー」
玉三郎がチラシをよく見ると「あなたの町の女の子をスカウト」との文字が!
玉三郎「がががーん」
玉三郎はテーブルに乗っかって転がり落ちる。
大岩家の居間では監督や植木鉢、クッションなどが浮かぶ。監督は笑顔。
マコ「何よ何よ。これじゃ驚いて帰るどころか、逆効果じゃないの」
そこへ玉三郎が。
パパ「あ、玉三郎!」
助監督「タマサブロー?」
監督は顔をしかめ、植木鉢やらといっしょに床に落っこちる。
助監督「このぼんが玉三郎ちゃん?」
パパ・ママ「はい、スターの」
そこへマコが「ごめんなさい」と階下へ。
マコ「お兄ちゃん、ごめんなさい」
ママ「マコ、これはいったい」
助監督「そうですよ、この子が玉三郎ちゃんで、この子はあのう、その…」
うなずき合う助監督と監督。
パパ「それじゃスカウトされたというのは、玉三郎じゃなくて」
ママ「あなた!」
玉三郎「いいんだよ、みんな! マコ、サンキューな。おれを傷つけまいとして、こんなことしたんだろう?」
マコ「お兄ちゃん」
玉三郎「いいんだよ、マコ。お前が最初にスターになればいい。それからだって、おれはお前を追いかけていくさ」
「お兄ちゃん」「マコ」と目に涙を浮かべ、光の中で抱き合うふたり。パパとママ、ネムリンは無言で見ていた。
監督は何やら叫ぶ。
助監督「まさにグーッド! このままドラマにいただき、とおっしゃっとります」
驚く一同。
助監督「永遠のテーマ、兄妹愛。それに迫る一大傑作。久々監督乗っとりますよー」
監督「はい!」
玉三郎「それじゃあおれ、マコといっしょに?」
監督は「カメラーカメラー」と叫ぶ。
ネムリンがカメラを回し、監督は「用意、スタート!」。玉三郎とマコが、フレームの中で抱き合う。だが変な音とともにカメラのフィルムが外れて飛び出す。ネムリンはフィルムまみれに。
ネムリン「うわー」
助監督は「あああ、フィルムが」。監督は激怒。
助監督「イメージがすっかり消えた」
監督「おれはこの仕事を降りる」
助監督「とおっしゃっとります」
一同は怒って「ネムリーン!」と迫る。
【感想】
終盤に来て、脚本に寺田憲史先生が初登場。第1話以来27話までのシナリオを執筆していた浦沢義雄先生は『TVオバケてれもんじゃ』(1985)の脚本も『ネムリン』と同時進行で担当しており、多忙を極めたゆえの措置であろう。寺田先生はこの時期に、東映の『科学戦隊ダイナマン』(1983)でもサブライターを務めていた。
前話(第27話)につづいて大岩家メインで、ゲストもいて、中山もさりげなく重要な役割を担う。スカウトの出現が発端で、レギュラー陣みなに出番があって、後半にどんでん返しが用意されていて、ラストにアクセントもあるというセオリー通りのコメディの構造を持ち、手堅い脚本家が書くとやはりこうなるのだと実感。ウェルメイドな筋立てを相当異質に感じてしまうのは、いつもの浦沢式の発作的脚本(思いつくままに書かれ、何ら伏線がなく新展開やアイディアがねじ込まれる)に慣れているせいであろう。この時代の浦沢脚本がいかに奇怪な形態であるかが、今回のおかげで浮き彫りになった感もある。
またゲストである監督と助監督コンビはエキセントリックな雰囲気だが、やはり玉三郎や中山の日ごろのトンデモ行動を思えば、普通のコメディリリーフという印象。マコが「だるまさんがころんだ」と言っているけれども、浦沢脚本ではこのような子どもの遊びも排除されることが多い(浦沢作品の子どもの台詞回しは、大人とあまり変わらない)。構造やアイディアに比すと、玉三郎でなくネムリンがトラブルを起こしていたり、関西弁など台詞の口調がいつもと微妙に違ったりする点など些末な違いでしかない。
何だか非難しているような文になってしまったが、個人的にはマコと玉三郎の兄妹愛が強調されたのは、完結が近いことを思わせてジーンとなった。玉三郎の最終エピソードとしてうまくキマった気がする。
1985年に入ってからは、浦沢先生は先述の通り『ネムリン』と『てれもんじゃ』をかけ持ちし、シリーズ前半を手がけた田中秀夫と加藤盟の両監督、林迪雄カメラマンなど撮影・美術などのスタッフは『ネムリン』を離脱して『てれもんじゃ』に異動。『ネムリン』の裏側はなかなか大変だったのではないかと推察される。ただし演技陣はみな乗っているし、スタッフの仕事もそれほどは手抜きを感じさせない。居間でのパニックのシーンでは手前で監督や助監督が騒いでいてそれを階段の上からマコとネムリンが見ている構図など、役者の配置の的確さには唸った。
ただし中盤でのマコの妄想のダンスシーンは、映画『フラッシュダンス』(1983)を意識したのかもしれないけれども、いささか冗長に過ぎる。
中山が玉三郎に抱きつくシーンがあるけれども、第3話でのふたりが体格にさほど違いがなかったのに対し、成長期の玉三郎の巨大化は顕著。玉三郎が思い浮かべる堀越学園は、第22話の映像がふたたび使われている。
マコが妄想する場面は、またも月見橋。
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