【ストーリー】
おつかいから帰ってきたマコ(内田さゆり)とネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。大岩家のドアには松飾りが。あれは何だと尋ねるネムリン。
マコ「何だか知らないけど、正月が近づくとこれやるのよ」
ネムリン「へえ」
居間ではママ(東啓子)とパパ(福原一臣)が、お供えもちをどこに置くかで言い争っていた。低いところに置くと玉三郎が食べちゃうとパパは主張。マコの買ってきたみかんを、ママはもちの上に置く。
ネムリン「あれも何だか知れないお正月のやつ?」
マコ「そうよ」
ジャージ姿の玉三郎(飛高政幸)が全力疾走。「玉三郎どこへ行くのよ〜」とビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター:山崎清)とモンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)は追っかける。
ビビアン「ねえ、玉三郎。あたしたちにいいアルバイトがあるって言ってたけど、見ればここはお寺じゃないの。どんなお仕事?」
玉三郎「まあ、見れば判るって!」
ビビアン「あたしね、どっちかというと体力がないほうだから、穴を掘ったり体を使ったりする仕事はまるっきりダメよ〜」
お寺へ来たところで、玉三郎が「和尚さーん」と呼ぶと、和尚(坂本あきら)が出てくる。
和尚「南無阿弥陀仏」
居間ではもちのみかんをネムリンが食べてしまっていた。「こらネムリン」と叱るマコ。そこへビビアンが「大変なの、大変大変」と駆け込んできた。
ビビアン「モンローがお寺の鐘に」
ネムリン「え?」
寺ではモンローが吊り下げられ、和尚が突いていた。
モンロー「モンロー」
何故か満足げな玉三郎。ネムリンたちは和尚に話を聞くことに。和尚はお茶を出す。
和尚「早い話が3日前、寺の鐘が家出したというわけでございます」
行く先に心当たりはなしという。
モンローを突く玉三郎。
ビビアン「面白そう、あたしにもやらせて」
玉三郎「ビビアン、お前力仕事ダメだって言ったじゃないか」
「それとこれとは別よ。突きたいの、突かせて」というビビアンと玉三郎はつかみ合いに。
和尚はネムリンに「お寺の鐘をおさがしください。お願いします」と頭を下げる。
マコは自室でミシンで何やら縫う。「お願いなんて言われてもな」とネムリン。
マコ「いいじゃないの、さがしてやりなさいよ。はい、完成」
マコはネムリンのために、シャーロック・ホームズふうの衣装をつくっていた。
マコ「なかなか似合うわよ。探偵ネムリン」
せきばらいするネムリン。
ネムリン「マコくん、この事件には得体の知れない謎があるような気がするんだがねえ」
そこへ「モンローモンロー」とモンローが。
ネムリン「お前、鐘のアルバイトしてたんじゃ」
モンロー「棒が、突っつく棒が」
寺では棒が折られていた。
ネムリン「この棒を壊した犯人は、きっとこの棒に恨みを持ったやつに違いない」
探偵ネムリンは「つまりすなわち、犯人は行方不明になったお寺の鐘である」と推理。
和尚「鐘がどうして棒に恨みを?」
ネムリン「ネムリンの推理では、鐘は長年この棒で叩かれ恨みを持った。ましてやすぐ除夜の鐘で、108回も叩かれる。108回も叩かれることに耐えられない鐘は、家出して恨みのある棒に復讐をした」
和尚は「なるほど」。
ネムリン「和尚、感心してる場合じゃない。次に狙われるのは和尚、あなたです」
和尚が振り向くと、鐘が襲ってくる。和尚は逃げるも、鐘に吹っ飛ばされてしまう。逃げ出す和尚を「待て〜」と追いかけてくる鐘(声:飯塚昭三)。
ネムリン「やっぱり。鐘は突いていた和尚にも恨みを持っていたんだ」
鐘は和尚に追いつくと、踏みつぶす。ネムリンは「こらー何するっちょ」と鐘にキック。
ネムリン「こら鐘。バカな真似はやめろ。大人しく除夜の鐘になり、108回叩かれろ」
鐘は浮かび上がる。
鐘「叩かれる人生はもうごめんだ。ネムリン、お前に除夜の鐘の苦しみが判るか。108回も叩かれるんだ。これからは叩く人生を送るんだ」
ネムリン「それが生意気なんだよ。鐘のくせしやがって」
鐘は飛び回って、和尚とネムリンを翻弄。ネムリンと和尚は命からがら逃げる。
和尚とネムリンはほうほうのていで、大岩家にたどり着いた。
ネムリン「それにしてもあの鐘のやつ」
和尚「ネムリン、どうしよう」
ネムリン「お寺か?」
和尚「それもそうだが、今年の除夜の鐘、このままだと…」
和尚は、鐘が和尚を突く光景を思い浮かべる。
ネムリン「なるほど、和尚が108回突かれることになるのか」
ふと気がつくと、和尚の姿がない。
マコの部屋にて、ネムリンは文句を垂れる。
マコ「お寺の鐘が、お寺を占拠?」
ネムリン「全く鐘の分際で!」
マコ「でも、なんとなく鐘の気持ちも。いままで叩かれつづけたんだから」
ネムリン「マコ、そういう変なロマンチックすると、婚期失うぞ」
マコ「ふん、大きなお世話よ」
そこへ、今度は玉三郎が。
玉三郎「和尚がボクシングジムに通い始めたんだ」
ネムリンは「さすが和尚だ。ボクシングジムに通って、鐘をやっつけるつもりなんだ」という。
だがジムでは、和尚は「がーん、がーん」と言いながらバッグを頭突きしていた。和尚は頭を鍛えて、自分が除夜の鐘になるつもりなのだった。ネムリンは「やめるんだ、やめろったら!」と止める。
和尚「ネムリン、ほっといてくれ。わしには立派に除夜の鐘を鳴らす義務があるんだ」
ネムリンは「和尚に除夜の鐘はやらせない」と宣言する。
またミシンで何か縫っているマコ。
ネムリン「早く早く、早くするっちょ」
「必死」と書かれたはちまきが完成。
はちまきをしたネムリンは「ちょちょちょちょちょちょ、ネムリン参上!」と刀を持ってお寺へ。だが鐘はいない。
ネムリン「飯でも食いに行ってるのかな」
そのころ、大岩家に鐘が襲来。テーブルをひっくり返して、暴れる鐘。防空ずきんをかぶった玉三郎とマコは逃げ惑う。
鐘「ネムリン、どこだー!」
寺にいるネムリンの前に、和尚が現れる。和尚は、鐘と戦うのは止めてくれと懇願。
和尚「わしにとって鐘はかわいい子どもみたいなもの。ネムリン、わしさえ除夜の鐘になればいいんだから、止めてくれ」
ネムリン「そんな」
和尚「ネムリン、鐘の人生を考えたことがあるか。あいつは一生叩かれていくんだ。そして、叩くのはこのわし。恨むのは当然じゃ」
ネムリン「でも」
和尚「もしどうしても鐘と戦うと言うのなら、わしをやっつけてから。さあ!」
灯籠の上で立ち尽くすネムリン。
ネムリン「和尚…」
ネムリンが帰宅すると、居間はめちゃくちゃにされていた。
マコ「鐘が来て」
ネムリン「くそー」
マコ「仇、頼んだわよ」
ネムリン「そ、それが、できないんだよ」
マコ「どうして!?」
何も言えず、飛び去るネムリン。
ジムでは相変わらず和尚が、バッグで頭突きの練習。見ていたネムリンは、顔を歪める。
ネムリン「こんなことがあっていいのか、こんなことがあって」
和尚は振り向く。
和尚「ネムリン、人生とはこんなものよ。そこはかとなくばかばかしいもの。名もなく貧しく美しくもなく」
「がーん、がーん」と和尚は頭突きを繰りかえす。
公園へ飛んできたネムリンは涙ぐむ。
ネムリン「せつない…」
すると鐘が迫ってきた。
鐘「ネムリン、覚悟」
ネムリン「鐘、見ろ。和尚のあの姿を」
「何だ?」と鐘はジムの中を見やる。まだ頭突きをしている和尚。
ネムリン「和尚は、自分が除夜の鐘になればことが片づくと」
「がーん」とショックを受ける鐘。
ネムリン「それもこれもすべては、こら鐘、お前がかわいいからだ」
「ががががががががが、がーん」とさらにショックを受ける鐘。
鐘「知らなかった、ああ知らなかった。和尚がそこまでおれのことを」
寺の階段に体当たりして、悶絶する鐘。
鐘「おれには鐘なんかなる資格はない。おれはただの鉄クズだ」
ネムリン「何もそこまで思わなくても。やめろ、やめるんだ。バカな真似はやめろ」
駆けつけてきた和尚。
和尚「その鐘をやるならわしをやれ。さあ、早く」
ネムリン「違う、違う、違うんだよ」
階段に炊いたりする鐘。「南無阿弥陀仏」と念仏を唱える和尚。
ネムリン「こうなったら」
ネムリンは、何故かその場にあったクレーンに角笛を吹き、和尚と鐘をつり上げる。
鐘「何だ、どうしたんだー」
和尚「助けてー」
「ちょっと乱暴だったかな」と見上げるネムリン。
大晦日の夜、玉三郎、パパ、ママ、ビビアン、モンローは年越しそばを食べていた。
ビビアン「そこはかとなくばからしく」
モンロー「名もなく貧しく美しく、もなく」
玉三郎「なんか暗い生き方だなあ」
パパ「ママ、除夜の鐘ちょっと遅いんじゃないか」
ママ「そうね、毎年いまごろ鳴ってるはずなんだけどね」
時刻は12時5分過ぎ。
寺では、和尚と鐘が言い合っていた。
和尚「わしを叩いてくれ」
鐘「おれを叩いてくれ」
和尚「お願い」
鐘「いや、ダメ。叩かれる歓びを知った以上、おれが除夜の鐘をやるよ」
「お願い」「おれの歓び取らないで」と言い合う両者を、驚いて見つめるネムリンと微笑むマコ。ふたりが門を出たとき、除夜の鐘が鳴る。ふたりは笑い合って駆けだした。
【感想】
『ネムリン』の1984年最後の放送回は4度目の無生物路線。バス停の第10話や肉まんとアイスの第16話がよく知られているけれども、今回も負けていない。シュールなバス停回や呆気にとられる肉まん回もそれぞれに魅惑的であったが、今回は無生物の激情が描かれた上に謎の人生訓まで盛り込まれ、驚くべき異世界が視聴者の前に現前した。
浦沢義雄脚本の前作『ペットントン』(1983)の無生物編(チャーハンとシューマイ、豆腐など)はシュールさや怪奇性が際だっていたのに対して『ネムリン』では無生物の感情の機微が描かれ、より共感を誘うようになっている。『ネムリン』の達成を経て、浦沢無生物ドラマは『魔法少女ちゅうかなぱいぱい!』(1989)の第12話「レイモンドとチャーハン」の無生物のからむせつない三角関係や『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)の第21話「いじけたジューサー」のどんでん返しといった飛躍を遂げる。
今回でまず驚かされるのは、鐘が和尚を突く場面。『ペットントン』の第39話「一日百円!?オミッチャン」では、金魚すくいならぬ宇宙人すくいが行われていたけれども、普通は魚や無機物がやることを人間(や宇宙人)にやらせるという、浦沢脚本らしい発想である。後年の『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第31話「スイカ割り大会の恨み」では、いつもスイカ割りで割られているスイカが人間を襲って割ろうとするという、今回の反復のような展開があった。
鐘が失踪した後、和尚はいきなりネムリンに鐘の捜索を依頼。行方不明になった無生物の関係者がネムリンに協力を求めるのはバス停の第10話でもあり、警察でもなくネムリンに頼むのは不可解(無生物界ではネムリンは有名なのかもしれない)。
クライマックスで語られる「人生とはばかばかしく、名もなく貧しく美しくもなく」だが、このような人生談義は浦沢義雄作品にまま出てくる。『うたう!大龍宮城』(1992)の「人生は二度ない、三度ある」が有名だけれども、先述の『ちゅうかなぱいぱい!』の「レイモンドとチャーハン」では、
「あのいまいましいオイルショックさえなければ、高山家は千昌夫に負けないくらいのお金持ちだったの。ところが、先代が大量にトイレットペーパーを買い占めたため、町内にトイレットペーパー一揆が発生し、高山家の土地は町内会に没収されてしまったの」
「嘘みたい…」
「ほんとのようで嘘みたい。人生ってそんなもんよ」
というやりとりがあり、そちらが思い出された。
演出面では、鐘が大岩家を襲撃する場面の迫力に度肝を抜かれる。鐘がテーブルをひっくり返したり、かなりの速度で室内を飛んだり、宇宙刑事シリーズでもおなじみの田中秀夫演出によるハードなアクションは『ネムリン』でも健在。クライマックスでは和尚(と鐘)が相当な高度まで吊られていて、同じ田中演出による第2話や『宇宙刑事シャリバン』(1983)の第26話「憎しみの罠 メイクアップ大戦争」でのビルの屋上から吊られるシーンを想起した。
鐘の声は『人造人間キカイダー』(1972)や『太陽戦隊サンバルカン』(1981)、『宇宙刑事ギャバン』(1982)、『ウルトラマンX』(2015)など数え切れないほどの特撮作品に出演している名優・飯塚昭三氏。この時期は『宇宙刑事シャイダー』(1984)でも悪のボス役を演じていた。不思議コメディーシリーズでは『バッテンロボ丸』(1982)や『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)などにも出演(『トトメス』のてるてる坊主役は、今回の鐘と似た調子の演技だった)。
熱演が光る和尚役は、東京ヴォードヴィルショーに当時在籍していた坂本あきら氏。ヴォードヴィルから佐渡稔、石井喧一、市川勇、花王おさむの各氏が不思議コメディーシリーズに出演していたのでその流れであろう。坂本氏は不コメでは『ロボット8ちゃん』(1981)の第50話「チビッ子忍者だドロロンパ」、『勝手に!カミタマン』(1985)の第12話「ノロイ君 都会へ行く」、『美少女仮面ポワトリン』の第22話「アパレラ公国の王子」などに出演している。