第9話「マコの㊙スキャンダル」(1984年10月28日放送 脚本:浦沢義雄 監督:大井利夫)
【ストーリー】
ベッドでいっしょに寝ているネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)とマコ(内田さゆり)。空には満月。
庭にいるビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター:山崎清)とモンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)。
ビビアン「月は晴れても、心は闇よ。ねえモンロー、最近ネムリンさまったら冷たいと思わない?」
モンロー「おら知らねぇ」
ビビアン「マコとばっかり遊んじゃってさ」
ビビアンは籠に入ったいちごを見せる。
モンロー「いちご、いちごくれえ」
ビビアン「いつもいっしょなんだから、あのふたりは」
ベッドで、マコとネムリンは手を握り合っている。
ビビアン「本当に頭にきちゃう」
モンロー「おら知らねぇ」
モンローがいちごに突進すると、ビビアンはジャンプ。モンローは壁に頭をぶつける。モンローがのびていると、ビビアンは「いちごのやけ食いよ〜」ともりもり食べる。
マコとネムリンは、いっしょにベッドから落ちる。寝相の悪いマコは床でごろごろ動いていた。朝になってビビアンが起こしに来て、目ざめたマコとネムリンは「落っこってる」と笑う。
朝の食卓でマコは「あーん」とネムリンにキュウリを食べさせる。ネムリンは「マコもあーん」。くやしがるビビアン。
ママ(東啓子)が予定のないパパ(福原一臣)に「お買い物つきあってくださる?」と言うと、パパは会社の部下が突然死んでお葬式だと言い出す。ゴルフクラブを持ったパパは、「南無阿弥陀仏」と言いながら出かけ、ママは「あなた!」と追いかける。
玉三郎がビビアンにおかわりを要求。
ビビアン「いやらしい」
玉三郎「おかわり」
ビビアン「不潔よ」
玉三郎「ビビアン!」
ビビアン「わかったわよ!」
ビビアンは「この!」としゃもじで玉三郎の口へ大量のごはんを押し込む。悶絶する玉三郎。
花畑で戯れるネムリンとマコ。「ネムリン!」「こっちー」と微笑み合うふたり。
子どもたちが「子供の森」と書かれた柵をどうよけるかの反応を見て、○×を出し合う。そこへ中山(岩国誠)が数学の本を読みながら歩いてくる。
ネムリン・マコ「ばつ!」
河原で思い悩むビビアン。
ビビアン「お前だったらどうする?」
モンロー「おらいちご」
「どうしよう」と言いながら側転やバック転をするビビアン。やがて何か思いついたビビアンは「いまに見てろよー」といちごの籠を振り回す。
モンロー「いちご、いちご」
ビビアンは牛乳屋のマサト(高木政人)に、マコの寝相の悪さをばらしていた。
ビビアン「もうベッドから落ちるわ、ぐるぐるぐるぐる回っちゃったりね」
八百屋の主人(木村修)には、大げさに言うビビアン。
八百屋「玄関で寝ていた!?」
ビビアン「そうなんですよ。驚いちゃいけませんよ。それもおしりを丸出しで」
警官(井上智昭)にはおねしょもしていたなどと言う。
ビビアン「あ、いけない。こんなこと言っていいのかしら」
寝ているネムリンを肩にのせたマコが歩いてくると、警官は吹き出す。
マコ「何か?」
警官に「寝相悪いんだって?」と言われて、驚くマコ。
マコ「まさか、ネムリンが…。ううん、そんなことないわ」
肩で寝ているネムリン。
マコが八百屋のおじさんに「こんにちは」と言うと、
八百屋「マコちゃん、あんまりベッドから落っこちると、お嫁さんにいけなくなるぞ、ふふふ」
マコ「どうしてあのおじさんまで知ってるの」
マコが牛乳屋の前へ来ると、マサトが笑う。
マサト「マコちゃん、ベッドをやめて布団にしたほうがいいんじゃない?」
マコはマサトをにらみつける。
大岩家のソファで寝ているネムリン。見つめるマコ。やがてマコはネムリンを起こす。
マコ「ネムリン、私の寝相のことみんなに」
憤慨するマコ。
ネムリン「どうだっていいだろ、そんなこと。あっち、眠い」
疑うマコ。
マコ「だってそれしか」
ネムリン「マコのバカ!」
ふたりはけんかに。庭に出て飛び回るネムリンと追いかけるマコ。ビビアンはそれを2階から見て喜んでいた。
街ではママが買いこんだものをパパが持たされていた。「あなた速く」と、ママはパパの耳をつかむ。
パパ「あいたた」
帰宅したパパは、疲れて寝入る。マコは「ネムリンったら、ひどいと思わない?」とママに文句を言っていた。
ママ「でもちょっと変よ」
マコ「何が?」
ママ「だってマコ、きょう一日中ネムリンといっしょだったんでしょ?」
マコ「そうよ」
ママ「じゃマコの寝相の悪いこと、誰にも言えないじゃない?」
マコ「そう言われてみれば。よかった、ネムリンじゃなかったのね!」
笑顔になるマコ。
公園で「あちょー」と叫んでいるネムリン。
ビビアン「ご機嫌のほうは?」
ネムリン「いいわけないだろ!」
ビビアンが「あたしをぶって気を静めては?」とネムリンをつかむ。
ネムリン「はなせってば」
ビビアン「ネムリンさまに傷つけられたーい」
モンローがビビアンを吹っ飛ばす。
ネムリン「ビビアン、お前病気じゃ」
ビビアンは「傷つけて傷つけてほしいの」となおも迫る。
ネムリン「ぞー」
逃げ出すネムリン。ビビアンは「ネムリンさまー」と追っていき、一応モンローもついていく。ネムリンが塀を飛んでいくと、ビビアンは空中回転で塀を越え、モンローは塀をぶち壊す。
大岩家の食卓にて、玉三郎が寝相のことをマコに言う。
玉三郎「おれビビアンから直接聞いたもん。マコ、お前そんなに寝相悪かったの?」
マコは「ビビアン!」とカメラに向かってパンチ。
公園でネムリンがビビアンにキック。
ビビアン「ああ、いい気持ち。最高〜」
ネムリン「モンロー、何とかしてくれよ」
モンロー「おら知らねぇ」
そこへ来たマコ。
マコ「あんたでしょ、私のこと寝相が悪いって言いふらしたのは」
驚くネムリン。ビビアンは否定。
ビビアン「あたしじゃないわ。ネムリンさま、お願い信じて。あたし、マコの寝相が悪くてお嫁さんに行けないとか、毎日ベッドから落っこっているだとか、それにベッドを壊したとか」
マコ「そんなことまで言ってたの?」
ネムリンは「このー」と激怒して、ビビアンに連続キック。
ビビアン「あーやめてーごめんなさいー」
マコは「もういいでしょ」と止める。
泣き崩れるビビアン。
ビビアン「あたし淋しかっただけ。ネムリンさまをマコにとられて、あたし悔しかったの。そりゃいけないことだって判ってたわ。でも、でもネムリンさまをあたしだけのものにするためには。あーあたしってほんとにいけないビビアン。だめなビビアン。哀れなビビアン」
ネムリン「どうしようもないね」
あきれ顔のネムリン。
ビビアン「これくらい同情してくれれば許してもらえるでしょ。さ、帰りましょ」
怒ったネムリンが角笛を吹くと、ビビアンが飛び乗った車のボンネットが開く。ボンネットとトランクに、キャッチボールされるビビアン。
ビビアン「助けてーモンロー」
モンロー「おら知らねぇ」
キャッチボールはつづく。
ネムリン「マコ、ごめん」
マコ「いいのよ。私のほうこそネムリンのこと疑ぐっちゃって」
「ビビアンの責任はネムリンの責任」と飛び去っていくネムリン。
ネムリンは夜になっても帰ってこない。ビビアンとモンローも落ち込み気味。食卓を囲むパパとママ、マコ、玉三郎。パパが「私の予想じゃネムリンはこのまま帰ってこない」と言うと、ママは「あなた」とマコを気遣う。
玉三郎「新宿あたりに行って非行の道に」
ママはおたまで玉三郎をこづく。
マコ「ネムリン、きっと帰ってくるわよ」
ビビアン「慰めはよしてよ。あたしがみじめになるだけよ」
マコ「あっそう。ならいい」
ビビアン「ああやっぱり慰めて」
ビビアンは「帰ってくる、帰ってこない」とティッシュ占い。「もう」とマコはティッシュを拾う。「帰ってこない!」でティッシュがなくなる。
そのとき、庭からごとんという音が。マコたちの目に飛び込んできたのは、大量のいちご。後ろからネムリンが現れる。
ネムリン「ビビアン、おみやげ!」
「ネムリンさま大好きよ」「おらいちご大好き」とビビアンとモンローははしゃぐ。笑い合うマコとネムリン。2階で、パパとママが微笑んで見ていた。
夜、人形になって棚に置かれているビビアンとモンロー。ビビアン人形は、ベッドでいっしょに寝ているマコとネムリンを見つめる。そしていっしょに床に落っこちるふたりだった。
【感想】
ネムリンとマコのGL編(ってかネムリンの性別はどっちだ)。いかにも浦沢義雄脚本的な怪アイディアに彩られたストーリーがほのぼのタッチで収束するという、『ネムリン』らしい佳篇。ひとけた話数の『ネムリン』(今回まで)はこういう癒し系な魅力がある(かなりおかしくなってきてはいるけれど)。
ネムリンとマコの仲の良さにビビアンが嫉妬して騒ぎが起こるわけだが、ネムリンとマコは唐突に恋人同士のような仲むつまじさを見せ、一方でビビアンはネムリンに八つ当たりされたりする手下キャラだったのに、今回は唐突に「ネムリンさま」などと言い出しており、その豹変ぶりに笑わされる。浦沢脚本では『ペットントン』(1983)の第14話「転校生はイヤナヤツ?」や『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第36話「お彼岸ライダーの謎」など、その回の都合に合わせてレギュラーの人格を一変させることがままある。
ビビアンはただ嫉妬するだけでなく、「ネムリンに傷つけられたい」などマゾ化し、浦沢先生の不思議コメディシリーズ初執筆である『ロボット8ちゃん』(1981)の第3話「僕は悪い子 怪ロボット」を想起させる(「お願いぶって」と迫るマゾロボットが登場し、劇中で気持ち悪いと言われていた)。
ビビアンのスーツアクターを務める山崎清氏は、今回も華麗な跳躍を披露。ビビアンが車のトランクとボンネットで懲罰を受けるシーンにも、ワイヤー?アクションに感嘆させられる(声の八奈見乗児氏も怪演)。
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ビビアンが凄絶なのでそればかりが印象に残ってしまうのだが、ネムリンとマコの情愛描写は好ましい。冒頭のネムリンとマコの花畑のシーンでは「セーラー服と機関銃」のインストが流れる。せつない曲調とスローモーションが印象的で、今回のハイライトであろうか(ただ花と女の子と異生物のシーンとしては坂本太郎演出の「ペットントンスペシャル」のほうが情感を醸し出せていたかも)。こういうラブラブなシーンにマイナーコードの曲を流すという演出は『3年B組金八先生』(1979)などでもあったけれども、80年代中盤を境にあまり見なくなったような感もある。
大井利夫監督は、『ペットントン』にて監督デビュー(処女作の第44話「ふられふられて根本君」は登場人物たちの狂人ぶりを煎じ詰めたような奇編だった。『ネムリン』では助監督をこなしながらも、傑作・佳作エピソードを撮っている。
マコの寝相をばらしたのがネムリンでないと助言するのはママで、『ペットントン』でもあったように、東啓子氏は含蓄のある台詞や重要な示唆を与える役割を担当。コメディエンヌのイメージの強い東氏は、こういう演技も実にうまい。寝相をばらしたのがネムリンでないと判ったとき、マコが「よかった、ネムリンじゃなかったのね!」と笑顔になるのは、ジーンとなる。カップルのようなふたりの描かれ方も『ネムリン』の魅力であろう。
ティッシュ占いは、『バッテンロボ丸』の第13話「地球さいごの大みそか」や『ペットントン』の第2話「ホニホニ初恋 愛してる」などでもあった。
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