『どきんちょ!ネムリン』研究

『どきんちょ!ネムリン』(1984〜85)を敬愛するブログです。

第5話「アキカン怪物の大逆襲」(1984年9月30日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)

【ストーリー】

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 棚で寝ているネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。マコ(内田さゆり)がカーテンを開ける。

マコ「ネムリン、朝よ。起きなさい」

ネムリン「もうおなかいっぱい」

 

 だが朝ごはんはこれからで、ネムリンは旺盛な食欲でパスタを食べる。思わず見てしまうママ(東啓子)と玉三郎(飛高政幸)、マコ。二日酔いのパパがふらふら降りてくる。

ママ「ごはんは?」

 パパは首を振る

ママ「じゃあお味噌汁くらい」

 何も食べずに出かけるパパ。

パパ「地球が回る〜もうニュートン

 パパは玉三郎のランドセルを背負っていく。

ママ「あなた、鞄が違うでしょ!」

 

 登校中のマコは、牛乳屋のマサト(高木政人)に相談があると言われる。

 

 寝ているネムリンに、ママはお使いを依頼。ネムリンはビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター山崎清)とモンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)にやらせればいいと角笛を貸し、ママが吹いてみる。すると人形のビビアンとモンローが、テーブルをひっくり返して実体化。何してんのと言うママを、モンローは「おら知らね」と持ち上げる。

 結局ぶつくさ言いながらおつかいに行くビビアンとモンロー。 

ビビアン「ネムリンったら自分が寝たいもんだから、あたしたちに買い物押しつけて」

 

 庭で、マコに話を聞かされたママ。

ママ「牛乳屋のマサトくんにガールフレンドができて」

マコ「うん」

ママ「で、ぶどう狩りに誘ったらふたりきりじゃいや〜んって断られて。で、マコもいっしょについてくと」

マコ「何だか私、付録みたいでさ」

ネムリン「でも牛乳2本飲んじゃった?」

マコ「ううん、3本」

ママ「それじゃついていってあげなくっちゃ」

ネムリン「ネムリンも行くっちょ。ぶどう狩りしたいちょ」

 それを聞いていた玉三郎ネムリンが「行くっちょ。ちょっちょっちょっちょー」と言うと、

玉三郎「おれも行く。ぶどういっぱい食べられるっちょっちょっちょっちょ」

 

 牛乳屋の店先にマサトと彼女(椎名千秋)が。そこへ玉三郎が現れて「このこのこの」。

玉三郎「お嬢さん、お嬢さんの体はぼくがお守りします」

 彼女はとまどった顔。

玉三郎「マサト、おれもあした、ぶどう狩り行くからな」

マサト「え!?」

 

 翌朝、ロープウェイの中でマサトと彼女に玉三郎がちょっかいを出す。窓の外を見て、愉しげなネムリンとマコ。

 御嶽山駅に着くと、手をつなぐマサトと彼女を玉三郎が引き離す。

 ぶどう畑ではネムリンがぶどうをはさみで切る。

 マサトが「あーん」と彼女にぶどうをあげようとすると、それを玉三郎が強奪。

 ネムリンはぶどうを口につまらせる。

 

 吊り橋でマサトが彼女の手を握ろうとすると、

玉三郎「みなさん、この牛乳屋のマサトは彼女とHなことをしようとしています!」

 

 玉三郎は川に空き缶を投げ込む。ネムリンとお弁当を食べていたマコは注意する。

マコ「ちゃんとゴミ捨て場に捨ててきなさいよ」

 玉三郎は「お前いい子ぶっちゃって」と反駁し、「あのふたりでもからかうか」とマサトと彼女のもとへ。

玉三郎「心のどこかで彼女とキスしようと思ってるだろう。このすけべ牛乳配達が」

マサト「何!?」

 怒ったマサトは玉三郎を追いかける。はずみで帽子が川へ。

玉三郎ヤクルトスワローズの帽子!」

 玉三郎は走って行き、空き缶などゴミのたまったところに漂着した帽子を見つける。

玉三郎「こんなところにつまりやがって。お前たち、大自然の美しさを壊してる」

 すると空き缶の群れががらがら動き、むっくり起きる。悲鳴をあげる玉三郎

 気絶した玉三郎ネムリンが起こしに来た。「空き缶のお化けが!」という玉三郎

ネムリン「玉三郎、夢見たっちょ」

 マコが空き缶をごみかごに片づけていた。

 やがて「ヘイヘイホー」と「与作」を唄いながら帰っていく4人。

 

 帰宅してもぶどうを憑かれたように食べる玉三郎

ママ「おなか壊すわよ」

 うなずくパパ。

 

 夜、棚でネムリンが寝ていると物音が。ネムリンは外へ行くが、何もない。

ネムリン「おかしいなあ。何だか怖いっちょ」

 すると物陰から空き缶のかたまりが。驚くネムリンは角笛を吹いて、ビビアンとモンローを起こす。

 

 大岩家の門扉から出てくるビビアンとモンローは眠そう。

ビビアン「ネムリンったら、こんなに夜遅くあたしたちを呼び起こして、どういうつもりかしらなのね」

モンロー「おら知らね」

 

 行きどまりに追いつめられたネムリン。ビビアンとモンローがやって来る。

ビビアン「あんたね。ネムリンをいじめたんでしょ」

 モンローが「おまかせ」とパンチすると、空き缶怪物はどーんと倒れる。「このやろこのやろ」と調子に乗ったビビアンがける。すると「ああ…」とうめくような声が。

ネムリン「ビビアン、やめるっちょ」

ビビアン「どうして」

ネムリン「この空き缶、泣いてるっちょ」

ビビアン「何、バカ言わないでよ」

 「ネムリン、あんた寝ぼけてるのよ」というビビアンとモンローは帰ってしまう。

 空き缶の怪物は「おれたちマコにお礼言いたかっただけ」という。

怪物「おれたち、川に捨てられた空き缶」

ネムリン「うひょー」

 驚くネムリン。

怪物「おれたち何もしない。マコにお礼言いたいだけ。マコ、おれたちをちゃんとくずかごに棄ててくれた」

 固められて、スクラップにされる空き缶のイメージ映像。

怪物「おかげでおれたち、立派なスクラップになれる」

 ネムリンは得心した。

ネムリン「マコに会わせてやるちょ」

怪物「でもマコ、おれたち見たらびっくりする」

 考えたネムリンは「ネムリンにおまかせ」という。

ネムリン「せっかくマコに会うんだから、もう少し綺麗にするっちょ」

 

 大岩家の庭へ来た怪物。ネムリンは「しゅしゅしゅのしゅ きんきんきらきら〜」と唄いながら怪物にスプレーし、ブラシをかける。

 自室で寝ているマコ。ネムリンと怪物が入ってくる。

ネムリン「マコの夢の中に入ってお礼言うんだろ」

 綺麗にしてもらった怪物はピカピカ光っている。ネムリンが角笛を吹くと、怪物は夢の中へ。

ネムリン「マコ、ステキな夢見るんちょ」

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 翌朝、食卓でマコは考える。

マコ「何だっけ、何かネムリンに話そうと思ってたことがあったんだけど」

 昨日食べすぎた玉三郎が、ふらふら起きてくる。

ママ「ごはんは?」

 玉三郎は首を振る。

ママ「じゃあお味噌汁くらい」

 何も食べずに出かける玉三郎

玉三郎「地球が回る〜もうニュートン

 玉三郎はパパの鞄を持っていく。

ママ「玉三郎、鞄が違うでしょ!」

 ママは赤いランドセルを持っていく。

マコ「ママ、それあたしの!」

 嘆息するパパ。

 

 ネムリンといっしょに登校するマコ。

マコ「あ、そうだ。思い出した。あたしね、きのう、空き缶のお化けの夢見ちゃった。そのお化けがとっても愉しいの。そうそう、そんなお化けがネムリンによろしくって言ってたわ」

ネムリン「そう?」

マコ「何だか知らないけど変な夢でしょ」

 笑うネムリン。

マコ「でもとってもステキな夢だった」

ネムリン「そう? よかったっちょ!」

 「行ってきまーす」と駆けていくマコ。見送るネムリンがふと見ると、くずかごに空き缶が。空き缶はピカピカ光っている。

ネムリン「綺麗っちょ」 

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 夢の中で、川原で微笑む空き缶怪物の周りをマコがスキップしていた。

マコ「わー綺麗」

 幸せそうで、まるで恋人同士みたいな、空き缶と女の子だった。

【感想】

 今回は不思議コメディーシリーズの前作『ペットントン』(1983)からつづく浦沢義雄脚本の無生物路線。前作では喋らなかったけれども、今回の空き缶は心情を話しており、深化した感がある(喋らないほうが趣があるという人もいるだろうが、喋ったほうが無生物の感情の機微がよく伝わるように筆者には思われ、今回の空き缶にはまさに我が意を得たり?という気が)。

 ネムリン』の無生物ドラマではバス停の第10話がよく知られているけれども、本話もさらりと愉しめるエピソードで決して悪くない。「大逆襲」などと物騒なタイトルの割りには実に穏当な展開で、インパクトはなくともほのぼのして、むしろ『ネムリン』らしいシュールな癒し系とで言うべきよさがある。今回に限らず『ネムリン』の無生物話は他の浦沢作品とは異なりサイコホラー的な趣向が少なめで、児童文学のような味わいもある(その分 “イビキ・サーガ” があぶないのだが)。他作品に比べて、温和な性格の無生物が多いせいだろうか。

 ビビアンとモンローがおつかいに行かされるシーンでは、声の八奈見乗児と田中康郎両氏がテンション高い怒りの演技で、何を言っているのか聞き取れない部分も。道ゆく通行人はふたりをほとんど見やることがなく、ハプニング撮影だと思うのだけれどもちょっと不思議。

 空き缶がアップになると昔の空き缶のロゴが映り込んでいる(この当時のテレビ・映画は、実際の商品を平気で映していた)。

 空き缶怪物の声はクレジットがないのだけれども、Wikipediaなどによると丸山詠二氏。『ウルトラマンタロウ』(1973)や『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975)、『仮面ライダーBLACK』(1987)などで多数の怪人・宇宙人の声を演じた超ベテラン。特撮作品での善玉役は珍しいかもしれない。筆者は『ドラえもん のび太と雲の王国』(1992)の大使役も印象深い。

 牛乳屋のマサト役の高木政人氏は『ペットントン』にて主役スーツアクターを務め、この後に派生作品『TVオバケてれもんじゃ』(1985)でもスーツアクターを担当する。この『ネムリン』前半の時期は『てれもんじゃ』のスタート前でおそらくスケジュールに余裕があり、本話のように遠方ロケに出ることも可能だったと想像される。

 坂本太郎監督は『ペットントン』ではメインディレクターで、今回から『ネムリン』に参戦。『ネムリン』後半は『てれもんじゃ』によって監督やスタッフの多くが異動する中で、本作を辣腕でもって支えた。

 ぶどう狩りのシーンは、御嶽山駅付近にてロケが行われている。『ペットントン』でも第6話では高尾山へ行くエピソードがあり、遠足話はある種の定番だった。

 ネムリンが追いつめられる路地は所沢航空記念公園のステージ。飾られている絵がバックに映り込まなければ全く判らなかっただろう。最近の東映作品でも『手裏剣戦隊ニンニンジャー』(2015)などに出てくる常連ロケ地だが、路地に見立てるのは異例。あの空き缶怪物を本物の路地で撮るのは、困難だったのだろうか。ちなみに不コメ次作『勝手に!カミタマン』(1985)の、同じ坂本演出による第30話「タクアンの西海岸物語」では路地のセットが建てられていた。