『どきんちょ!ネムリン』研究

『どきんちょ!ネムリン』(1984〜85)を敬愛するブログです。

第2話「起きろ玉三郎の脳みそ」(1984年9月9日放送 脚本:浦沢義雄 監督:田中秀夫)

【ストーリー】

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 夜の大岩家。玄関前で酔っぱらい(山崎猛)が「なみだの操」を熱唱。マコ(内田さゆり)は寝苦しそうで、棚にいたネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)は怒って酔っぱらいのもとへ。

ネムリン「おい、いいものあげるから静かにするっちょ」

 ネムリンが角笛を吹くと、手元に奇妙なケースが。開けると中から音楽とともに音符が飛び出す。酔っぱらいは寝入ってしまう。

ネムリン「これでぐっすり眠れるっちょ」

 

 翌朝の日曜日。ネムリンは棚で寝ていた。庭では、ビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター山崎清)がピストン運動のような奇妙な体操をする。モンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)はダンベルでトレーニング。警戒した目つきのママ(東啓子)。マコと玉三郎(飛高政幸)は食事中。

ママ「マコ、ネムリンは?」

マコ「寝てる」

ママ「そう、8億年も眠ってたんでしょ」

 ビビアンが「いち、に、いち、に」と元気に運動している。

ママ「いくら眠れば気が済むのかしら」

 ママは、「玉三郎、いつまでごはん食べてんの!」と玉三郎をどつく。

ママ「来年は中学受験なんだからね。そんなことじゃ堀越入れないわよ」

玉三郎「おかわり」

 もりもり食べる玉三郎

ママ「あ、そうそう。ネムリンって普段は動かないものを動かしたり、浮かしたりできるんだって?」

マコ「本人は眠っているものを起こすだけって言ってたけど」

 そこへ「もう酒やめた」とパパ(福原一臣)がふらふら降りてくる。

 

 玉三郎はマコの部屋に侵入。棚で寝ているネムリン。玉三郎は「じりりりりりり」と目覚まし時計みたいな声を出し、「起きろネムリン!」「コケコッコー」と叫ぶ。

ネムリン「アホか」

 

 庭で洗濯するママとゴルフの練習をするパパ。

ママ「ネムリンのことなんですけどね、うちに住むようになったからには、少しは役に立ってほしいわ。マコに言ってもらえません?」

パパ「あーくやしー」

 パパはゴルフに夢中。

ママ「あなた!」

パパ「は?」

 

 勉強する玉三郎の横で、眠そうなネムリン。

玉三郎江戸幕府を開いた人は…判らない!」

 あくびするネムリン。

玉三郎アメリカの首都は…判らない!」

 ネムリンは「あぁ…」とあくび。

玉三郎ネムリン、お前眠ってるものを起こさせるんだって」

ネムリン「うん」

玉三郎「頼むネムリン、おれの眠っている脳みそ、起こしてくれ。お前もうすうす感じてるだろうけど、おれって正直言ってばかなんだ」

ネムリン「あちょー」

 微笑む玉三郎

玉三郎「おれって正直だろう?」

ネムリン「うん」

玉三郎「正直だけが、おれの財産なんだ」

 ネムリンは、角笛を吹いてみる。

玉三郎「何だかおれ、頭がよくなったみたい」

 だが結局、問題を解いても同じことだった。

ネムリン「やっぱりあんたの脳みそは最初から十分に起きていたんだよ」

 ショックで倒れる玉三郎ネムリンが額に触ると、微熱があった。玉三郎は寝込む。

パパ「玉三郎、痛いか?」

 パパは「これとどっちが痛い?」と玉三郎の腕に噛みつく。「あー!」と叫ぶ玉三郎と、「あなた!」と止めるママ。

 

 マコの部屋にいるマコとネムリン。

ネムリン「なるほど、言われてみればただで置かせてもらって眠っているばっかりじゃあねえ」

マコ「それがいけないっていうんじゃなくて、忙しいときなんか大人って頭にくるみたいなの」

ネムリン「働けばいいのね」

マコ「え」

ネムリン「じゃんじゃんこき使って」

マコ「ネムリンを?」

ネムリン「ううん、ビビアンとモンロー」

 ネムリンが角笛を吹くと、棚にいたビビアンとモンローの人形が実体化。ネムリンは寝る。

 

 線路脇の道を歩く、おつかい中のビビアンとモンロー。

ビビアン「まったく不公平よ。どうしてあたしたちが働かなくちゃいけないの」

モンロー「おら知らねぇ」

ビビアン「モンロー、あんたそれしか言えないの。もう怒るわよあたし」

 ビビアンがモンローを叩いていると、「こらー」と警官(奥村公延)が止めに来る。

ビビアン「あたしビビアン」

モンロー「おらモンロー」

ビビアン・モンロー「どうぞよろしく」

 急にまとわりついてくるふたりに、「かー」と叫ぶ警官。

 

 大岩家では、中山(岩国誠)が寝込んだ玉三郎をうちわであおいでいた。

玉三郎「中山、おれ蒲焼きじゃないんだから」

 今度はふーふー吹く中山。鬱陶しそうにする玉三郎

 

 居間ではパパが「聖子ちゃん…」、ママが「トシちゃん…」と寝言を言いながら眠る。

 2階から降りてきた中山はパパとママを起こし、「もうお昼ですね」。

中山「ぼく、カツ丼で結構ですから」

 呆気にとられるパパとママに、マンガを読んで笑う中山。中山はカツ丼にマヨネーズをかけて食べる。

中山「判るなあ。玉三郎くんのような出来の悪いお子さんを持ったおじさまやおばさまの苦労が。ぼく、ぼく、同情しちゃいます」

 食べながら泣き出す中山。怒りに震えるパパ。

パパ「なかーやーまー」

 がしゃーんという音がして、ボコられた中山が玄関に出てくる。

中山「では、さようなら」

 

 ビビアンとモンローは警官につきまとっていた。河原でそれを見かけたネムリンとマコ。ネムリンは角笛を吹く。警官の自転車は勝手に動き出す。

マコ「眠ってる自転車を起こしたの」

 自転車は宙に浮かび上がった。 

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 交番で警官に怒られるパパとママ。

警官「何だと言うんだ、あれは。動物?いや…それにしても失敬なやつ」

 憤然とする警官。

パパ「まいった、まいった」

ママ「あなた、あたしもう決心しましたからね。ネムリンたちに出てってもらう」

パパ「どうやって」

ママ「あたしに任せて」

 

 大岩家の居間にて、泣き崩れるママ。苦々しい顔のパパ。

ビビアン「そうなの、この家そんなに貧乏だったの」

 電化用品は揃えてあっても借金がかさんでいるのだとか。ママは「あなた」とパパの耳をつかむ。

パパ「そ、そう〜借金だらけ。私がサラ金に手を出したばっかりに、10億ぐらいはあるかな」

 笑うパパに、驚くネムリンとビビアン、モンロー。

ママ「パパのお給料、年々下がる一方だし」

パパ「え!?」

 ママはパパをクッションで叩く。

パパ「そーう。下がる一方! 今年の暮れあたりは一家心中しようと考えているんだ」

 笑うパパに、ママは「同情してくれるわね」とネムリンに迫る。ネムリンたちの反応を伺いながら泣いてみせるママとパパ。その話を玉三郎が聞いていた。

玉三郎「そうか。うちはそんなに貧乏だったのかあ」

 

 おつかいから帰ってきたマコ。

マコ「結局は、あたしが買い物することになっちゃうんだから」

 居間で話を聞いたマコは、買い物籠を思わず床に落とす。

マコ「ネムリンたちが出て行った!?」

 

 公園でネムリンたちは「これからどうしようか」と相談。

ビビアン「大丈夫、あたしがついてるじゃない? ネムリンくらい何とかするわよ」

ネムリン「ほんと?」

ビビアン「働けばいいんでしょ、働けば」

ネムリン「ビビアンが?」

ビビアン「いいえ、モンローよ。モンロー、あんた一生懸命働いてあたしたちをらくさせるのよ」

モンロー「おら知らねぇ」

 つかみ合うビビアンとモンロー。そこへ玉三郎が「遠くへ行きたい」を唄いながら歩いてきた。

 

 居間で怒るマコ。

マコ「ひどいじゃないの、パパ、ママ。私にどうして相談してくれなかったの!? 私にひとこと言ってくれたって」

 そこへ電話ボックスのネムリンから電話が。

ネムリン「玉三郎が」

マコ「貧乏苦にして家出!?」

 驚くパパとママ。

 

 公園でビビアンとモンローが玉三郎をつかまえようとする。

玉三郎「堀越に入ってスターになろうなんて、そんなこと言ってる場合じゃないんだ。おれみたいな貧乏人の子は、小学校だって贅沢だ」

 

 走ってくるマコとパパ、ママ。

パパ「しかしまさか玉三郎が聞いてるとはな」

ママ「あたし信じられない。玉三郎に貧乏苦にして家出するようなデリケートな神経があったなんて」

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ネムリン「玉三郎、落ち着け落ち着け」

玉三郎「お前たちに貧乏人の苦労が判ってたまるか」

 公園でビビアン、モンローともみ合う玉三郎は、池に転落。そこへマコたちが。

マコ「うちが貧乏なんて嘘なのよ。そりゃ大したお金持ちじゃないけど」

玉三郎「マコ、お前は知らない。真実を知らないんだ」

 パパとママは謝罪する。

ママ「あの話はネムリンをうちから追い出すための」

パパ「ネムリン、すまん!」

ママ「ごめん」

 何故かビビアンも頭を下げる。見ているネムリン。

玉三郎「マコ、だまされちゃいけない。そうやってパパやママはおれを慰めようとしている。貧乏人がよく使う手だ!」

マコ「え?」

玉三郎「マコ、心配するな。お兄ちゃんが働いて、いや身を売ってでも、お前くらいは小学校に行かせてやる。これからの世の中、特に女は小学校くらい行ってなきゃ生きていけないからな。そう、生きていけないからな…」

 唖然とするマコたち。

マコ「ネムリン、どうしよう」

ネムリン「玉三郎、パパとママ、マコのうちはお金持ちよ」

玉三郎「どうしてお前が知ってるんだ」

ネムリン「あっち、パパとママが別荘買う計画、聞いちゃったもん」

 「え!?」と驚くパパとママ。

ネムリン「ねえ、パパ」

 困って笑うパパと「そうそう」と言い出すママ。

ママ「そうそう、軽井沢に。ねえ、あなた?」

パパ「そうそう、軽井沢に。思い切って土俵つきの別荘を3つほど」

 ママが「新宿の!」と促すと、

パパ「ああああ、超高層ビル。よし、あれも買っちゃおう。ひとつ100兆億円くらいのものかな。安いもんだ。なあ、あははははは。東京タワーでもいいぞ」

 疑いの目を向ける玉三郎

ママ「さあ、帰りましょ。玉三郎

 パパとママも池にざぶざぶ入る。パパは気持ちいいとお風呂のように入り、玉三郎に石鹸を渡される。ママは「あなた!」。帰って行く3人。

ネムリン「一時はどうなることかと思ったけど」

ビビアン「でもネムリン、あたしたちはどうなるの?」

モンロー「おら知らねぇ」

ビビアン「あんたなんかに誰も聞いてないわよ」

マコ「新宿の超高層ビル買っちゃううちだもん。ネムリンたちを置かないなんて、もう言わせないからね」

 ウインクしてみせるマコ。

 

 夜、ママがみなのラーメンの出前を頼んでいた。

玉三郎「おれ、チャーシュー麺

ママ「ダメ、ラーメンにしなさい」

 玉三郎は驚く。

玉三郎「判らない、判らない。軽井沢に土俵つきの別荘や新宿の超高層ビルディングを買える家庭が、どうしてチャーシュー麺を食べさせてくれないんだ」

 ベランダで「おれには判らないんだ!」と叫ぶ玉三郎。みなは笑ってしまうのだった。

起きろ玉三郎の脳みそ

起きろ玉三郎の脳みそ

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【感想】

 玉三郎のフィーチャー回だが、パパやママなどレギュラー陣みなに出番があり、人物・設定の紹介編としてうまくまとまっている快編。全編に心地いい脱力感が漂っており、不思議コメディーシリーズの過去作とは違った独自性が早くも確立できている気がする。脱力エピソードのせいか、初見より見直したときのほうが愉しく感じられた(結局ネムリンたちを家に置くことに落ち着く後味の良さもいい)。主人公が粗暴だった『バッテンロボ丸』(1982)やレギュラー陣が狂人揃いの『ペットントン』(1983)に比して、『ネムリン』はシュールながらほのぼの感やほろ苦さが強く、ある種のシフトチェンジが意識されているのが伺える(大岩家の人びとも決して常人ではないが)。

 

 役者さんたちの好演も光っており、パパとママは『ペットントン』でも共演していただけに、掛け合いはもう完成の域でうまさに圧倒される。パパ役の福原一臣氏は、『ペットントン』の宇宙人・オミッチャン役とは対照的なお父さんキャラだが、嘘をつくときの笑いが宇宙人のときを彷彿とさせ、玉三郎を説得するときの身振り手振り演技は圧巻。ママ役の東啓子氏も、パパに突っ込みを入れる間合いの良さが素晴らしい。『ペットントン』では他人同士だったけれども、今回の夫婦っぷりに違和感はなく、またエンディングのタイトルバックで一瞬見つめ合うシーンではややどきりとさせられる。

 玉三郎は、飛高政幸氏が以前に演じた『ペットントン』のガン太役(ゲイの設定が執拗に強調された)とは異なる人物造形で、思い込みで猪突猛進する迷惑男。飛高氏の違ったよさを早くも引き出せている感がある。

 警官役はやはり『ペットントン』のレギュラーだった奥村公延氏だが、この後で奥村氏は何の説明もなく別の役(タイムスリップおじさん)として登場する(警官はタイムスリップおじさんが化けていたのか)。警官が宙に浮くシーンでは、その高度に驚かされる(奥村氏でなく別人だろう)。

 

 ビビアンのスーツアクター山崎清氏は、『ペットントン第38話にて風邪ウィルス役を演じて、台所での乱闘シーンですごい身のこなしを見せており、今回のビビアンの軽業にも感嘆させられる。ビビアンの声の八奈見乗児氏は超ベテランだけれども、おねえキャラの声は新鮮に感じられる。

 冒頭のみ登場する酔っぱらいは、『ウルトラセブン』(1967)の第13話「V3から来た男」や『仮面ライダーアギト』(2001)などの山崎猛氏。不コメでは『もりもりぼっくん』(1986)の第13話「知蘭博士の愛のムチ」や『おもいっきり探偵団 覇悪怒組』(1987)の第17話「危険なサイクリング」にも出演している(後者は重要な役だった)。翌朝のシーンで登場するパパも飲み過ぎたと言っていたので、もしかするとシナリオではパパだったのをスケジュールの都合か何かで別人に変更したのかもしれない。

V3から来た男

V3から来た男

 パパとママ、マコが駆けつけるシーンでは、『ペットントン』の第13話、第38話でも使われた、練馬区月見橋が登場。『ネムリン』では第13話、第26話でも出てきた。