【ストーリー】
ビルの工事現場付近で、ひとりの女の子が写真を眺めていた。本作の主人公である小学4年生・大岩マコ(内田さゆり)である。
マコのナレーション「私はこの2学期の初め、ボーイフレンドのアキラくんにふられた」
クリスマスや運動会などでの、アキラ(飯村隆志)とのツーショット写真。
マコのナレーション「ふられた原因は判らない。ただ判っているのは、夏休みが私からアキラくんを奪ったことだけ」
マコはマッチを擦って、写真に火をつける。端から焼けていく写真。突如写真が吹き飛び、高架から落ちていった。追いかけるマコは、階段を駆け下りる。地下の暗がりを燃えながら飛んでいく写真は、ドラム缶の中へ。マコがのぞき込むと水面があり、マコは吸い込まれる。たどり着いた部屋には布が敷き詰められ、奥には不思議なシルエットがあった。燃える写真は、シルエットのもとへ。それは小さなピンクの妖精だった。
マコが自室のベッドに寝ていると「マコ、起きろ!」との声が。
マコ「お兄ちゃん?」
満面の笑みを浮かべた兄・玉三郎(飛高政幸)。玉三郎はベッドにぼん!と乗っかり、カメラに向かって語りかける。
玉三郎「おれ、マコの兄・大岩玉三郎。小学校6年、来年中学受験、私立希望。堀越に入ってスターになろう!」
階下からの「早く食べないと学校遅刻するわよ」との声に、玉三郎は「は〜い、は〜い」とかわいくスキップしながら出て行く。マコが引き出しを開けると…。
マコ「ない。アキラくんといっしょに撮った写真がない」
ベッドには怪物のような人形が2体いた。
朝食をとっているマコ、玉三郎、パパ(福原一臣)、ママ(東啓子)。
マコのナレーション「大岩家の今朝の献立は、昨日のすき焼きの残りと納豆。味噌汁は大根。ご紹介します。私のパパ、大岩ヨウスケ35歳。信じられないくらい平凡なサラリーマン」
幸せそうにしらたきを食べるパパ。
マコのナレーション「私のママ、大岩サチコ30歳。信じられないくらい平凡な主婦」
すごい勢いで納豆をかき混ぜるママ。
髷をかぶって本を読みながら歩く少年が、大岩家の前に現れる。玉三郎の友人・中山(岩国誠)だった。大岩家のみなが食べ終わったところに、「がおー」と中山の叫び声が。パパが驚いていると、玉三郎は「がおー」と応戦。
ランドセルを持って玄関を出たマコは、がおーと叫ぶ玉三郎と反対の方向へ行く。訝しそうなパパ。
ママ「玉三郎といっしょに行きたがらないんですよ。何でも学校じゃ玉三郎の兄妹だということも秘密に」
納得した顔のパパも、マコと同じ方向へ。
パパ「きょうから私も、こっちから行く」
仲良く登校する玉三郎と中山。
中山「そうですか。玉三郎くんは堀越に入ってスターに」
玉三郎「ああ。中山、お前は?」
中山「ぼくは中学とか高校とか行かないで、直接小学校から東大に入っちゃおうと思うんです」
やがてマコも校門前へ。そこへアキラが新しい彼女(田中恵里子)と手をつないで歩いてきた。思わず見つめるマコ。アキラは目をそらす。
マコは帰宅して写真をさがすが、ない。ふとベッドを見ると、朝あった変な人形もない。マコが居間へ行くと、夢の中にいたあのピンクの妖精が人形を横に従えて牛乳を飲んでいた。
マコ「あなた、たしか私の夢の中に出てきた…」
マコが「泥棒!」と牛乳を取ると、妖精(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)は奇妙な声を上げて、宙を飛んだ。驚くマコ。飛び上がった妖精は、跳ね回る。
妖精「泥棒はどっちだ! ビビアンとモンローを勝手に持ってっちゃって。だいたいあんたのおかげで8億年の眠りから覚めちゃったんじゃないの。この責任どうとってくれるの」
マコは妖精にスプレーをかける。つづいてほうきではたこうとすると、妖精はほうきの上に停まる。
妖精「あっちネムリン。あんたに8億年の眠りから覚めさせられたネムリン。あんたの名前は?」
マコが「大岩マコ」と名乗ると、
ネムリン「面白い子ね。気に入ったっちょ。仲良くしようぜー」
ネムリンは飛んで2階の窓へ。マコもテーブルの上の人形を持って2階へ行く。マコの部屋では、ネムリンが棚で寝てしまっていた。
マコ「出てって。出てってよ。この人形返すから出ていって! 何がビビアンよ、何がモンローよ」
そこでネムリンが笛を吹くと、例の人形が実体化。それがビビアン(声:八奈見乗児 スーツアクター:山崎清)とモンロー(声:田中康郎 スーツアクター:石塚信之)であった。いきなり天井を這い回るビビアン。
ビビアン「あたしビビアン」
モンローが足踏みすると地響きが。
モンロー「おらモンロー」
ネムリンの友だちなのだという。
ビビアン「ねえネムリン。あたしたち、おなかぺこぺこ。何しろ8億年もなーんにも食べていないんだから」
ネムリンはマコに任せて寝入る。
ビビアン「あんたがマコ?」
マコ「マコマコってあんたたち失礼よ。ちゃんくらいつけたら」
マコはビビアンをはたく。ビビアンは「食べさせて」とマコにまとわりつき、マコは「やだ気持ち悪い」と厭がる。
マコ「そこのでっかいの。ネムリンを起こす方法を教えなさいよ」
モンロー「おら知らね」
苛立つマコ。やがてビビアンとモンローは階下へ行き、8億年ぶりのごはんを求めて勝手に冷蔵庫を漁り始める。そこへ玉三郎が帰宅。
玉三郎「お客さま?」
あーっと逃げ出す玉三郎。マコは最後の手段で、2階のネムリンを連れてくる。
モンロー「いくらでも入るわねえ」
がつがつと食いつづけるビビアンとモンロー。
マコ「お願い、ネムリン。あのふたりを止めさせて。うちのお兄ちゃん、普通の性格じゃないから、このままじゃこの家、大変なことになっちゃう」
靴下のままの玉三郎は、ママを引っぱってきた。誰もいないキッチンの床には、ビビアンとモンローによって、食い荒らされた食物が。
ママ「玉三郎!!」
玉三郎がマコの部屋に来ると、マコは机に向かっていた。「おかしいなあ」と首をひねる玉三郎。ネムリンと小さくなったビビアン、モンローは棚にいた。
玉三郎が降りてくると、ママが怒っている。
ママ「こんなことをするのはわが家では玉三郎、お前だけですよ」
玉三郎「おれにはその決定的な決め方がおもしろくないんだ!」
ママは玉三郎を追いかけて、フライパンで叩く。「無実だよ!」と逃げる玉三郎。マコは心の中で「ごめん、お兄ちゃん」とつぶやく。玉三郎は玄関で怒ってランドセルを叩きつけると、足を引きずって歩いて行く。
マコ「私、お兄ちゃんに悪いことしちゃった」
寝ているネムリン。
マコ「そりゃあ、あなたの8億年の眠りを起こしたのは私の責任かもしれないけど、お兄ちゃんまで巻き込むことないでしょ。愛してるとか愛してないとかの問題じゃなくて、あれでも私のたったひとりのお兄ちゃんなんだから」
泣き出すマコ。
ネムリン「あっち、そういうの大嫌い。行こう、ビビアン、モンロー」
「あんたなんか大嫌い!」と言い合うマコとネムリン。
怒った玉三郎はハンバーガーをやけ食いしていた。なだめる中山。
中山「玉三郎くん、落ち着いて落ち着いて」
「何!」と玉三郎は中山につかみかかる。「がー」と叫ぶふたりの横を、手をつないだアキラと彼女が歩いていく。
玉三郎「下級生のくせしやがって、おれなんか女の子と歩いたことないのに」
大岩家に中山から電話が。
マコ「中山くんってお兄ちゃんの友だちの?」
公園で玉三郎がアキラと彼女を襲っていた。
玉三郎「許せない、許せない。おれなんか女の子と歩いたことも、手を握ったことも、匂いをかいだこともないのに」
迫ってくる玉三郎。
アキラ「匂いくらいかいでもいいです」
彼女「アキラくん!」
アキラ「いいだろ」
彼女はアキラをひっぱたく。彼女をほったらかして逃げ出すアキラ。追いつめられた彼女に、玉三郎は舌なめずりして近づく。そこへ駆けつけてきたマコと中山。マコは玉三郎を止めようとするが、玉三郎ははねつける。
マコ「やめて、お兄ちゃん!」
ネムリン「うるさいなあ」
屋根の上にネムリンがいた。
ネムリン「どうしたの、マコ?」
マコ「お兄ちゃんが!」
玉三郎は彼女の周りをぐるぐる回って威嚇していた。ネムリンが角笛を吹くと、ホースが動き、玉三郎を縛りつけた。驚く中山。玉三郎は気絶。
マコ「忘れてた。これ、マコに返さなくちゃ」
少し焼けた、アキラとの写真だった。クリスマスなどの仲睦まじいふたりの写真。ネムリンが「いくよー」と放ると、写真が散らばった。
ネムリン「想い出なんだろ?」
拾い集めて、改めてかつての自分たちの笑顔を見て、悲しげなマコ。ネムリンが笛を吹くと、写真はケースに綺麗に収まった。
ネムリン「ふあーあ、大切に」
マコ「ネムリン…」
今度は慌てるママがパパを引っぱってきて、いっしょに帰宅。にらみつけている玉三郎。大岩家の食卓では、ネムリン、ビビアン、モンロー、マコが食事中。
マコのナレーション「こうしてネムリンとビビアン、モンローはうちに住むことになりました」
ネムリンは器用にラーメンを食べる。
マコ「あ、パパ。お帰りなさい」
驚き怯えるパパとママ。
【感想】
いきなりアバンタイトルで始まる第1話。不思議コメディーシリーズの『ペットントン』(1983)もそうだったが、主題歌でなくドラマ部分から始まると、80年代の子ども向けドラマとしては意外性がある(第1話だけだけれど)。しかも『ペットントン』は宇宙から始まったのに対して、『ネムリン』は工事現場にたたずむ女の子からスタート。前作とはひと味違えていくよ、というさりげない宣言かもしれない(悲恋自体は前作にもあったが)。
つづいて大岩家のメンバーが全員登場するけれども飛高政幸、福原一臣、東啓子という『ペットントン』の面々が家族役で思わず笑ってしまう。不コメ第1作『ロボット8ちゃん』(1981)と2作目の『バッテンロボ丸』(1982)の間にも連投しているキャストはいたので別段珍しいことではないのだが、『ペットントン』終盤と平行してこっちもやっていたのだなと撮影現場を想像すると可笑しい。
ネムリンの従者的なビビアンとモンローの見た目は不気味で、特にビビアンは気持ちが悪い(ビビアンの気色悪さは第9話で炸裂する)。浦沢義雄脚本では『ルパン三世』(1979)の「君はネコぼくはカツオ節」でもゲストキャラクターの名でビビアンは使われている。
序盤の朝の献立を紹介するという流れは『ペットントン』の第1話「ETのふしぎなオトシモノ」と全く同じ…。
ネムリンとマコはいきなり諍いになっており、それぞれの感情の流れがやや唐突に感じられるほどだけれども、この点も過去の『バッテンロボ丸』や『ペットントン』の1話とは異なっていて、今回の主役コンビはいままでと違うと思わせる。
また前半にコミカルに登場した玉三郎が、後半にとばっちりを食うシーンでは、オープニング主題歌のインストゥルメンタルがせつなげに流れて、つかの間シリアスな空気が立ちこめる(『ペットントン』の1話でも哀切な雰囲気のシーンはあったが)。後年の浦沢脚本による『美少女仮面ポワトリン』(1990)や『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)の第1話はそれぞれスピーディーな展開で敵役と戦い、特に『シュシュトリアン』の1話「涙の妖怪 ザ・お正月」は大傑作と言っていい出来映えだったけれども、この『ネムリン』の1話みたいな、コミカルさとペーソスとの振幅というような味はない。
そして玉三郎の襲撃を経て、ネムリンがマコに写真を返すシーンでは、ふたたびほろ苦さが醸し出される。
マコが写真を焼いたのは夢の中だったはずだが、現実にネムリンが返却したときにも写真は焼けていた。夢と現実とのあわいがあいまいなのも『ペットントン』など他の不コメ作品には希少な、『ネムリン』独自の魅力であろう。冒頭の出逢いのシーンは闇の中に浮かび上がるネムリンなど幻想味が強く、直近では『宇宙刑事シャリバン』(1983)や『宇宙刑事シャイダー』(1984)で多数のエピソードを撮った田中秀夫監督の奇抜な個性がいかんなく発揮されている。また冒頭が工事現場なのも田中演出による『ロボット8ちゃん』の第41話「カリント先生の希望の注射」にてビルの工事が延々と映されるのを連想した。
前作から趣向を変えて、シュールで幻想的な設定にビターな大人っぽさもちょっと加味された『どきんちょ!ネムリン』が、いよいよ開幕する。