第26話「アイドルDJ!玉三郎」(1985年2月24日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)
【ストーリー】
「ねむねむねむ…」と棚の上で寝ているネムリン(声:室井深雪 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。マコ(内田さゆり)が「ただいま〜」と帰宅する。マコが「わっ」と脅かすと、ネムリンはびっくりして、壁、戸、窓などに激突して墜落。目を白黒させる。
公園でパンを食べている玉三郎(飛高政幸)。玉三郎が放ったパンくずを、中山(岩国誠)が犬のように口を開けて受けとめる。
中山「今年のお年玉は、全部秋葉原でスピーカー買っちゃったんだよ。玉三郎くん」
玉三郎は物思いにふけっていた。
マコが玉三郎のカラオケセットを、町内の敬老会に寄付すると言い出した。
マコ「いいじゃないの。堀越落っこったんだから」
笑顔で、露骨にバカにした調子のマコ。
そのことを思い出していまいましげな玉三郎は、「うん」とうなずいて何かを決意した様子。
中山「玉三郎くん」
玉三郎「中山!」
中山「はい!」
食卓で「♪腹減った 早くしろ 腹減った」と箸でカップを叩いて唄うネムリンとマコ。呆れるママ(東啓子)。
ママ「もう、玉三郎みたいなことしないの」
ネムリンとマコは顔を見合わせて「ねー!」。
玉三郎はリヤカーに巨大なスピーカーを載せて運ぶ。「いいじゃないの。堀越落っこったんだから」というマコの声がリフレイン。後ろから押す中山。
中山「やめたほうがいいんじゃないの?」
巨大なスピーカーが大岩家のあちこちに配置された。閉口した顔のマコと不思議そうなママ。
ママ「ここにも…」
そして玉三郎の部屋には、カラオケセットやDJ用の機器が準備されていた。部屋に入ろうとするママやマコ、ネムリン。
ママ「玉三郎、ここを開けなさい」
マコ「お兄ちゃん、何企んでるの」
ドアのノブを押さえて、中へ断固入れない玉三郎。
夜になって無言で夕食を取るパパ(福原一臣)、ママ、マコ、ネムリン。見ると、食卓のそばには巨大なスピーカーが鎮座。パパはため息。すると中山が2階から降りてくる。みなは中山に注目。
中山「ぼくのせいじゃありませんから」
逃げるように去る中山。スピーカーは無気味にたたずむ。
マコの部屋で、マコといっしょに寝ているネムリン。やはり窓にはスピーカーが。
マコ「まさか、この中に爆弾か何か…。ああ、そんなことないか」
不安を振り払うように、ネムリンは布団をかぶる。
朝が来て、みなはまだ寝ていた。マコの部屋、パパとママの部屋、そして居間でそれぞれ気味の悪い存在感を放つスピーカーたち。次の瞬間、突如玉三郎の声が。
玉三郎「おれは、堀越へ、行く!」
ヘッドホンをつけた玉三郎が自室でマイクに向かってがなっていた。
玉三郎「おれは堀越へ行く!」
マコの部屋ではネムリンが飛び起き、マコを起こす。
「堀越へ!」という大音量に、パパとママも「何だ何だ何だ!」と飛び起きる。
門扉に備えつけられたスピーカーからも「おれは堀越へ行くんだ!!」という玉三郎の叫びと「♪堀越へ入ろう〜」という歌声が。
玉三郎の歌声の流れる居間で、うんざり顔のパパ、ママ、マコ。
パパ「バカだ…。マコ、何とかならんのか」
マコ「部屋に鍵かけてるから」
パパは頭を抱えて「困ったなあ」。ネムリンが「大変だー」と外から入ってくる。
「♪ときどき挫折なんかしちゃって」と玉三郎の歌声が門扉の拡声器から流れ、道行く人が「何だ?」と集まっていた。慌てたパパとママがガウン姿で走り出て「おはようございます」と笑ってごまかす。
玉三郎の声「マコ、悪いけどお兄ちゃんに朝ごはん持ってきて! 冷蔵庫にあるもんでいいから。どうせうちにはろくなもんないんだから!」
パパはガウンで拡声器を隠し「何でもありません。何でもない!」。
居間でマコは「頭にきた」。
DJブースの前で「腹減った」と玉三郎。部屋に来たマコは、玉三郎の口にパンを押し込む。
マコ「お兄ちゃん、これはいったいどういうことなの!?」
マコは玉三郎を押しくり、その拍子にオンエアのボタンが押される。
居間ではマコと玉三郎の声が流れた。
マコの声「お兄ちゃん、まだ堀越の夢を?」
玉三郎「持っちゃ悪いのかよ」
玉三郎は区立の中学には行かないと言い出す。
外の拡声器を外して室内で戻って来たパパとママは、居間のスピーカーに聞き入る。
玉三郎の声「浪人して来年もう一度堀越受け直す。おれには堀越しか生きる道はないんだ。堀越だ! 堀越ばんざーい」
困惑した顔のネムリン。パパとママは顔を見合わせ、ひっくり返る。
自室で叫ぶ玉三郎。
マコ「お兄ちゃん、いい加減にして」
玉三郎「うるさーい」
ネムリンが「大変だ大変だ」と飛んでくる。
ネムリン「マコ、パパとママが」
スピーカーの横でパパとママは寝込んでしまっていた。
ママ「神さま…」
パパ「ほほほ、堀越…堀越…」
なすすべもないマコとネムリン。
DJブースでパンにかぶりつく玉三郎。
玉三郎「マコのやつ、いつからあんな厭な女になったんだ。パパもママもあれじゃ苦労するよ、まったく」
スピーカーからは声が。
玉三郎の声「あんなやつ、早く嫁に出しちゃえばいいんだよ」
マコは思わず立ち上がるが、ネムリンがなだめる。
ネムリン「マコ、落ち着いて落ち着いて。ま、ここんとこは、抑えて抑えて。ね?」
マコはすわる。
マコ「だいじょぶよ」
玉三郎の声「あいつの性格がああなったのも、ネムリンとつき合ってからだ。あいつがいちばん悪い」
ネムリン「んん〜何だって〜!?」
今度はネムリンが激怒。
「開けろって言うのが聞こえないのか」とネムリンがドアを叩きつづけると、玉三郎は「何だよ」と急にドアを開け、びっくりしたネムリンはカラオケセットにぶつかる。玉三郎はネムリンをちり取りに乗せ「関係者以外は立ち入り禁止」と窓から外へ放る。
ネムリンは庭へ転落。
ネムリン「あいてー」
マコは「ネムリン」と駆け寄る。
ネムリン「いてててて、やられちゃった」
橋のたもとへ来たネムリンとマコ。
マコ「どこのうちにも、ああいうのひとりくらいいるんじゃないかしら」
ネムリン「うーん」
マコ「要するに、近づかなきゃいいのよ」
行ってしまうマコ。
ネムリン「マコ、どこ行くんだ?」
マコ「友だちんち」
そこへパパとママが。
パパ「ふたりで映画でも見てくるから」
ママ「あと頼んだわよ」
ネムリン「ええ?」
ママ「玉三郎のこと」
パパ「あんなやつ、自分が嫁に行けばいいんだ」
パパとママも行ってしまう。「頼まれちゃっても…」と困るネムリンだが、
ネムリン「そうだ。まったくパパの言う通りっちょ!」
玉三郎「おれは行くと言ったら必ず行く。大岩玉三郎はそういう男なんだ!」
「♪やると決めたらどこまでやるさ〜」と玉三郎は「人生劇場」を歌い出す。
商店街で花嫁姿の等身大玉三郎パネルを立てたネムリンは、叩き売り。
ネムリン「玉三郎を嫁にもらってくれる人はいませんかー? いまなら売れどき、食べどき、お買い得! あ、そこのサラリーマン、どうだい? 丈夫だよぉ。60年の保障つき!」
サラリーマンは「いや」と首を振って歩み去る。
所変わって駅前で叩き売り。
ネムリン「玉三郎を嫁にもらってくれる人はいないかな! そこの社長、玉三郎をお嫁にしちゃおう。どうだい?」
男は「いやいや」と通り過ぎていく。
ネムリン「あー学生学生、早く身を固めて親を安心させろ」
公園で「やっぱダメか」と意気消沈のネムリン。
ネムリン「誰かいないかなあ、玉三郎を嫁にもらってくれるような男らしいやつは。あ、いたいた」
中山が剣道の素振りをしていた。
ネムリン「♪ 中山さん、あちょっと来てね、かっこいいよ、ほれ中山さん」
「色男!」と呼ばれて来た中山は、玉三郎の等身大パネルを見て「何ですか、これ?」。
中山「え!? 玉三郎くんを」
パネルの目がウインク。中山は身震いして「とんでもない」と拒否。
ネムリン「こんなばかなお願いできるの、中山、お前しかいないんだ」
中山「ちょ、ちょっと待ってよ」
中山「ええ、まあ、一応そういうことに…」
ネムリン「なあ中山。親友ならお嫁にしたってな」
中山は「冗談じゃないよ」と逃亡し、大岩家へ。
話を聞いた玉三郎。
中山「でも大丈夫です。みんな断ってましたから」
玉三郎「何〜」
玉三郎は中山の首を締め上げる。
中山「苦しいよ、やめてよ」
玉三郎「中山、放送をつづけろ」
玉三郎は部屋を出て行く。
中山「ぼくは何の芸もないつまらない人間ですから、学校の校歌でも唄います。♪緑豊かに空青く〜」
居間のスピーカーから中山の歌声が。
中山の唄をバックに、険しい形相で道をゆく玉三郎。玉三郎は“貸衣装”の店の前で立ち止まり、中へ。
公園ではネムリンが犬に話しかけていた。
犬とパネルは見つめ合う。犬は犬小屋にいる玉三郎を想像。
犬の玉三郎「あなた、食事の支度ができたわよ」
逃げ出す犬。
ネムリン「おーい、犬。ちょっと待ってよ。あーあ、行っちゃった。やっぱりダメか」
そこへ「おーい、ネムリン」と玉三郎の野太い声。本当に花嫁衣装を身にまとった玉三郎が! 驚くネムリン。
玉三郎「ネムリン、どいつだ。おれを嫁にしないなんて言った不届きなやつは、どいつとどいつだ!?」
ネムリン「ちょちょ」
玉三郎「この美しい玉三郎を嫁にしないなんて、許せない。さあ教えろ」
玉三郎はブランコでマンガを読む青年、ベンチで新聞を読むスーツの男、工事現場で働く人びとをにらみつける。
玉三郎「おれを嫁にしろ〜」
玉三郎は男たちを襲撃。
玉三郎「結婚してくれ〜待て〜」
みなは逃げ出す。
玉三郎「結婚してちょうだい」
おびえて逃げ惑う男たち。
玉三郎「誰でもいいから結婚してくれ〜」
バレーボールをしていた女性たちも巻き込まれ、公園はパニック状態に。ネムリンが角笛を吹くと、かごに入っていたボールが次々浮かび上がって玉三郎にぶつかり、最後はかごが浮かんで玉三郎にすっぽりかぶさる。
玉三郎「あれ?」
ネムリン「ナイス!」
大岩家では、中山のワンマンステージがつづいていた。スピーカーからは中山の声が響く。
中山「玉三郎くん、早く帰ってきてください。玉三郎くん。仕様がない、やるしかないな」
ブースの前では、ヴィジュアル系と化した中山が「麗人」を熱唱。
中山「♪結婚という言葉はタブーにしよう〜」
かごの中で泣き崩れる玉三郎。
玉三郎「こんなに美しいおれを嫁にもらわないなんて」
ネムリンは嘆息する。
ネムリン「あーあ、見ちゃおれん」
【感想】
受験の失敗が確定した第24話では、途中でタコの話になり玉三郎は放置された格好だが、今回は主役。堀越をあきらめきれない玉三郎の大暴れが描かれる。何というか、もう感想を書くのもはばかられるようなトンデモ回…。当初は笑って見ていたのだけれども、見直してみると何だかやけっぱちの玉三郎が個人的には人ごとと思えず、笑いも凍ってしまった。
前話(第25話)では冗談を言ったりして割と立ち直ったかに思えた玉三郎だったが、やはり憤懣やるかたなかったらしく、大岩家でワンマンショーを繰りひろげる。そしてパパとママ、マコが逃げてからは、玉三郎の嫁取りという言語を絶した展開に突入。
この時期の浦沢義雄脚本の常として、事前に構成を考えず思いつくままにつづっていくという手法を取る。そこで第24話のように前半と後半で分裂していることもあり、唐突さが笑いを誘うのだけれども、一方でうまくいかなかった場合は第14話でシンデレラの靴がパパの足にフィットしたというのが放置されたり、第25話の序盤で青い鳥をさがしていたのがいつのまにかうやむやになったりと迷走に思えなくもないケースもある。今回は、前半はDJ騒動で後半は嫁取りとやはり分断されているが(嫁さがしは中盤で思いついたのだろう)、双方ともに玉三郎がメインであるので一応全編筋は通っている。
ラストは泣き崩れる玉三郎で放り投げるように終わっていて、後年の浦沢脚本『うたう!大龍宮城』(1992)の第39話「ホタテガイ」の結末を連想した。ただ「ホタテガイ」が失恋をクールに描いて幾分かの悲哀を滲ませたのに対して、今回はパニックが強烈に描かれたので見ている側としては呆気にとられたまま終わってしまうが。
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冒頭に中山が秋葉原でスピーカーを買ったと言っていて、当時はまだ電気街だった(なぜスピーカーを買ったのかは不明)。後半に玉三郎が中山を締め上げており、ふたりの体格の違いに驚かされる。第3話では互角に取っ組み合っていたのに、半年足らずでこれほど体つきに差がつくとは。
マコが処分しようとしたカラオケセットは80年代によくあった自宅用のもので、『ペットントン』(1983)の第14話などにも登場した。
ネムリンとマコが唄う「早くしろ」の唄は、『ペットントン』の第29話でも使われている。音楽と言えば、騒動前夜のスピーカーのバックに「トッカータとフーガニ短調」が流れ、見る者を心胆寒からしめて効果的。坂本太郎監督回は、『海賊戦隊ゴーカイジャー』(2011)の「魔笛」やエリック・サティなどクラシックの選曲も凝っている。
今回はゲスト不在で、寝不足怪人などの変なおっさんも登場せず。ビビアンとモンローも欠席であるゆえ超生物はネムリンのみで、そのネムリンも玉三郎に振り回される役回りに過ぎない。登場人物はほぼ普通の人間のみで、まさに特殊能力を持たない人の凄まじさが実感される回であった。人間万歳。
第2話、第13話などでも使われた月見橋がまた登場。ネムリンが玉三郎のパネルを立てているのは石神井公園駅の前。
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